イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズ名義としては初めてのアルバムとなる「ドゥ・イット・ユアセルフ」です。前作は名義こそデューリーのソロでしたけれども、実質的にはブロックヘッズの面々がバッキングしていましたから、一般にはブロックヘッズの2作目で通っています。

 この作品は「デビュー・アルバムの大ヒットに続き全英2位を記録した、強烈なグルーヴ感漂う2ndアルバム」です。前作が90週も全英チャートにランクインする大ロングセラーでしたから、当然本作品が発表されたのは前作がまだチャートを荒らしていた頃です。

 デューリーの音楽は、新奇さを狙うものではなく、ごった煮感漂うもののR&Bをベースにした堂々たるサウンドの本格派ロックでしたから、ロングセラーが似合います。それはヒットチャートから消えたにしても、綿々と続いて現在に至るという類のロングセラーです。

 この作品はそうしたサウンドに自信を深めたデューリーとブロックヘッズの面々がさらに強烈なグルーヴを展開する素晴らしいアルバムです。パンクで鍛え直された耳には確かな技術に裏付けられたサウンドはとても新鮮に感じたものです。

 前作でもサウンドの要だったギターとキーボードのチャズ・ジャンケルはこのアルバムではミュージカル・ディレクターとしてクレジットされています。ジャンケルがさらにその持てる力を十二分に発揮して作り上げたサウンドはこくがある味わい深いものです。

 冒頭の「インビトゥイーニーズ」がゆったりしたテンポのファンキーな曲であるのは前作と同様です。もうここでぐいぐい引き込まれます。そこから全10曲、レゲエなども採り入れたごった煮のサウンドがぐつぐつと音をたてています。デューリーの猥雑なボーカルもいい。

 このサウンドをべた褒めしていたのはミュージック・マガジンの中村とうようです。「このアルバムでのブロックヘッズのサウンドは久しぶりに聞いたスリルに満ちたロックだった」、「サックスとキーボードの作り出すサウンドはとにかく最高だ」と熱く語っています。

 武骨なロックですけれども、ただ単に昔の焼き直しではなく、パンクやニュー・ウェイヴの数々のバンドの良質の部分だけを採り入れて同時代的に進化していることが素晴らしいです。時にクールに時に熱く、ブキブキのサウンドが展開していきます。

 ファンキーなキーボード、飛び跳ねるサックス、「ダンス・オブ・スクリーマーズ」でのスピード感あふれるベース、「ララバイ・フォー・フランシス」の何とも言えないレゲエ・バラード、とにかく猥雑なデューリー御大のボーカル。聴きどころ満載の本当に素敵なアルバムです。

 そんなアルバムに相応しく、2001年のビクターからの紙ジャケ再発盤は愛にあふれた豪華さです。このアルバムにはジャケットが56種類も存在すると言われているのですが、そのうち18種類を収めた豪華ブックレットが付けられています。素晴らしすぎます。

 ジャケットは壁紙をモチーフとしたもので、同じ会社のデザインを用いて複数種類がリリースされました。コストのかかる提案でしたが、すんなり受け入れられたばかりか、国違いだけではなく、プレスのたびに新たな種類を追加するという狼藉ぶり。パンクですねえ。

参照:「中年ロッカーたちのシブいシンセ使い」中村とうよう(NMM79年9月号、ミュージック・マガジン社)

Do It Yourself / Ian Dury & The Blockheads (1979 Stiff)