アンプを背負ってエレキ・ギターを弾きまくる一人パンク男ビリー・ブラッグの姿を見た時にはとても痛快でした。誰もやらなかったコロンブスの卵的なアイデアで、なるほどこれはパンクだと胸がすく思いがしました。ビリー・ブラッグ、とてつもなくかっこよかったです。

 ビリーは1957年12月生まれですから、まさにパンク真っただ中に青春を過ごしています。実際、1977年にはチズウィック・レコードからシングルを発表もしたパンク・バンド、リフ・ラフを結成して活動していました。しかし、同バンドは1981年には解散してしまいます。

 音楽活動に見切りをつけて英国陸軍に入隊したビリーですが、やはり音楽の道を捨てがたく、数か月で除隊して戻ってきます。そうしてレコード店でアルバイトをしながら、一人パンク・スタイルを編み出して、ライブ活動を精力的に行っていきます。

 一人パンクですから、路上ライブもお手のものですし、デモ・テープ作りも手間がかかりません。しかし、斬新ではありましたが、常識的なスタイルではありませんから、なかなかデビューの機会は得られませんでした。そこで彼は一計を案じます。

 テレビの修理人としてカリスマ・レコードのA&Rを担当していたピーター・ジェンナーのオフィスに潜入してデモテープを聴かせることに成功したんです。カリスマはこの後破産して、ピーターはビリーのマネージャーになりますから世の中面白いものです。

 この時、ビリーは音楽出版社チャペルからデモを制作するオファーを受けていたこともあって、ビリーのデモを気に入ったピーターは新たに制作するデモをカリスマ傘下のユーティリティから発売することとしました。人生何があるか分かりませんね。

 本作品はたった3日で制作されたその時のデモ音源をまとめたアルバムです。題して「ライフズ・ア・ライオット・ウィズ・スパイvsスパイ」、全7曲、わずか16分弱の短いアルバムです。そこがまたいいです。ますますパンクじゃないですか。

 アコースティック・ギター片手に弾き語るとフォーク・スタイルですが、エレキ・ギターだと途端にパンクになるのはとても面白い発見です。アコギはクラシックにもある通り、ギター一本の演奏に馴染みがありますが、エレキ・ギターはほぼ常にバンド演奏ですから新鮮でした。

 ビリーは後に政治的な主張を繰り広げることになりますが、デビュー作となる本作品では概ね恋愛の歌です。しかし、その歌詞からは労働者階級の現実が色濃く立ち昇ってくるところにビリーの真骨頂がすでに現れています。生活感がとてもリアルです。

 本作品はカリスマの倒産で廃盤になりましたが、すぐに他のレーベルに拾われて再発されるとじわじわと人気を獲得し、翌年早々には全英30位に入るヒットとなりました。それを受けて、ビリーは英国のみならず欧州、米国もツアーしてまわることになります。

 このスタイルは今聴いても新鮮です。サイモンとガーファンクルにも影響を受けたと語るビリーです。正統派ギター弾き語りをしっかり押さえた上での一人パンクはとにかくリアルが際立っています。ビリー・ブラッグはとてつもなくかっこよかったです。

Life's A Riot With Spy vs Spy / Billy Bragg (1983 Utility)