1961年1月にメゾン・ド・ラ・ミュチュアリテにて録音されたイーゴリ・マルケヴィチ指揮ラムルー管弦楽団によるベルリオーズの「幻想交響曲」です。これはマルケヴィチにとっては2度目の「幻想交響曲」録音だということです。ドイツ・グラモフォンからの発表です。

 ベルリオーズの「幻想交響曲」は原題に「ある芸術家の生涯の出来事、5部の幻想的交響曲」とある通り、自身の失恋物語を壮大な交響曲にしたという、いわゆる標題音楽です。歌詞がついていればオペラになるところですが、歌曲ではありません。

 その代わり、各楽章には作曲者自身による解説が書かれており、それぞれの楽章が何を表しているのかがよく分かるようになっています。まことにもって親切というべきなのか、それなら歌詞をつければよかったのにとも思ってしまいました。

 それぞれの楽章には、「夢、情熱」、「舞踏会」、「野の風景」、「断頭台への行進」、「魔女の夜宴の夢」との標題がつけられており、サウンドを聴けばそれぞれの標題に納得するしかありません。「舞踏会」はワルツだし、「断頭台への行進」は行進曲だし。

 ここまでさまざまな情景を具体的に描写していて、その題名が「シンフォニー・ファンタスティーク」とくれば、ディズニーの「ファンタジア」を思い出さずにいられません。ちょっと物語の内容があれですけれども、この曲一本で「ファンタジア」を作ってもよかったかもしれません。

 そんなわけでベルリオーズの解説を読みながら、マルケヴィチ指揮ラムルー管弦楽団の演奏に耳を傾けておりますと、ミッキーとミニーが踊りだすようになってしまいました。あるいは酔っぱらったダンボ。いずれにせよ、大変親しみやすい音楽です。

 マルケヴィチはこの年まで足かけ5年にわたり、ラムルー管弦楽団の常任指揮者を務めていましたから、この組み合わせによる演奏はもはや円熟の域に達していたのでしょう。そのため、この作品もとても高い人気を集めています。

 バーンスタインは「幻想交響曲」を「史上初のサイケデリック交響曲」と呼んだそうです。ベルリオーズ自身がアヘンを吸いながら作曲したという逸話もあり、曲の内容にもちょっと普通でないところがあるからでしょう。確かにサイケといえばサイケです。

 バイオリンの弓の木の方でカチャカチャ弾くパートが出てきたり、雷鳴を模したティンパニが出てきたり、魔物たちが集まったり、なんやかやと大変です。これはもう指揮者もオーケストラもお酒でも飲んで演奏してしまえばいいのにと思いました。

 CD化に際してカップリングされたのは、ケルビーニの「アナクレオン」とフランソワ・オーベールの「ポルティチの娘」というオペラの序曲2曲です。同年の同じ組み合わせの演奏です。幻想交響曲と比べるといかにもオーソドックスな曲で幻想が際立ちます。

 マルケヴィチという人はカラヤンにいじめられたとか、ディアギレフの最後の恋人になったとか、ニジンスキーの娘と結婚したとか、そういう話題が多い人です。そんなゴシップもサイケデリックさえ端正にこなす演奏の前にはかすんでしまいます。

Berlioz : Symphonie Fantastique / Igor Markevitch (1962 Deutsche Grammophon)