エリック・クラプトンの初めてのソロ・アルバムはブラインド・フェイス以降デレク&ザ・ドミノス以前に制作されました。長らく続くクラプトンのソロとしてのキャリアにあって、まだバンドを組んでいた時期に制作されたという意味で特異な位置を占める作品です。

 クラプトンのブラインド・フェイスは周囲の期待と自分たちの進みたい方向とのギャップに苦しみ、結果的に自然消滅してしまいます。そのきっかけとなったのは、米国ツアーでブラインド・フェイスの前座を務めていたデラニー&ボニーとの出会いでした。

 クリームの残り香を期待される中で、大らかなアメリカン・ロックの世界は強くクラプトンを惹きつけたのでした。ブラインド・フェイスの自然消滅後、クラプトンはデラニー・ブラムレットの家を訪ねて、彼とともに自身初のソロ・アルバムの構想を練ることになりました。

 この経緯はとても有名な話で、1970年代には特に熱心なファンでなくとも、洋楽に興味がある人ならばみんな知っていたのではないでしょうか。古き良き時代、ロック界というのは単純なものでした。三大ギタリストはロック界の中心にいたのでした。

 本作品はそんな経緯がありますから、デラニーがプロデューサー兼アレンジャーとして大活躍しています。集められたミュージシャンもボニー・ブラムレットはもちろんのこと、ほとんどがデラニー・ファミリーとでも言うべき人物ばかりです。

 中でも注目はベースのカール・レイドルとドラムのジム・ゴードンで、この二人はこのままデレク&ザ・ドミノスのリズム隊になっていきますから、クラプトンはこの二人にはすっかり魅了されてしまったということです。本作品でもしっかりと屋台骨を支えています。

 大物としてはレオン・ラッセルやスティーヴン・スティルスの名前が見えます。それにホーンにはジム・プライスとボビー・キースというローリング・ストーンズのツアーで名の知れた二人が参加しています。アルバム冒頭でのボビーのサックスはとりわけかっこいいです。

 裏ジャケには参加者の集合写真が掲載されており、その中でスーツを着ているのはクラプトンとその友達エディーだけです。ディープ・アメリカなレイド・バック・スタイルのみんなの中でとても異質です。それでもクラプトンは嬉しかったんでしょうね。

 セルフ・タイトルとなった本作品はそんなわけでクラプトンのソロの系譜に並べるよりも、デラニー&ボニーの作品に並べた方がしっくりくるサウンドになっています。しかも、クラプトンは全面的にボーカルをとっているのですが、言われないと彼だとは分かりません。

 恐らく後のクラプトンしか知らない人がこのアルバムを覆面で聴かされればクラプトンのソロだとは思わないでしょう。いわゆるスワンプ・ロックの大らかなサウンドが全編に漲っていますし、クラプトンのギター・ソロもとてもリラックスしていて、そこが何とも素敵です。

 シングル・カットは「アフター・ミッドナイト」のみですし、クラプトン基準ではさほど売れませんでしたが、彼のキャリアの中では欠かせないアルバムです。聴けば分かるさスワンプ・ロックのデトックス効果を聴き手も味わえるちょっといい感じのアルバムです。

Eric Clapton / Eric Clapton (1970 Polydor)