メデスキ・マーティン・アンド・ウッド、いかにもジャズ・コンボらしい名前です。三人が対等の立場で音楽を作り出す、いかにもジャズ的で気持ちがよい名前に相応しく、彼らが作り出す音楽もとても気持ちがよいです。最初に口をついて出るのは「気持ちがよい」です。

 しかし、彼らをジャズ・バンドだと認識したのは本作品がブルーノートから発表されていることと、彼らが当初は比較的オーソドックスなジャズをやっていたと聴かされてからです。まどろっこしい言い方ですが、音だけ聴いたら特にジャズだと思わないということです。

 キーボードのジョン・メデスキ、ドラムスのビリー・マーティン、ベースのクリス・ウッドからなる三人組のメデスキ、マーティン・アンド・ウッドは1991年に結成されています。何でもドラマーのボブ・モーゼズが三人を引き合わせたのだそうです。

 メデスキはジャコ・パストリアスとも共演しており、ラウンジ・リザーズなどと活動していましたし、マーティンもチャック・マンジョーネ・グループに在籍した後にラウンジ・リザーズに参加しています。ウッドもニューヨークではジョン・ゾーンと共演したりしています。

 要するに三人ともニューヨークの最先端サウンドに身を浸してきた人たちです。そうなるともはやジャズだの何だのという垣根などは全く不要ですから、ぱっと聴いてわざわざこれはジャズですなどと確認する必要もないし、そんなこと気にしていたら全く楽しくありません。

 とかなりジャズにこだわっているような書き方になってしまいました。ジャズ・バンドだと聴いてあまりに驚いたもので。そんなことには全く関係なく、このグループのサウンドは震えがくるほどかっこいいです。いかにもニューヨークっていう感じがします。

 本作品は2002年にブルーノートから発表された彼らの通算8枚目のアルバムです。タイトルは「アンインヴィジブル」、ヴィジブルの二重否定になっており、さすがに辞書にも記載のない言葉です。見えなくないぞ、ですかね。仮面の三人にヒントがありそうです。

 三人のインタープレイがバンドの持ち味であることは当然ですが、中でも時にベースがキーボードの前に立ってサウンドを引っ張っていく様がかっこいいです。さらにリズムはヒップホップの影響を受けていてファンキーで歯切れがとてもよいです。

 多彩なゲスト陣では、二人のDJによるターンテーブルがまず目立ちます。本作品のプロデューサーも務めているスコッティー・ハードも一曲でターンテーブルを操っています。このスクラッチによるヒップホップ感覚が見事にはまっています。

 さらにアンティバラスのホーン陣も参加し、キッド・クレオールにも参加していたダニー・ブリュームがバリトン・ギターを弾いているなど、アフロ・ファンク風味も加味されています。まさに当時のニューヨーク最前線のサウンドがつまっているといってよいでしょう。

 恐るべきメデスキ・マーティン・アンド・ウッドです。卓球をしているかのような余韻で終わる終わり方も見事なように、細部にわたる気配りも素晴らしい。特に三人での活動に固執しているわけでもなさそうですし、どこまでも自由で洗練されています。かっこいいです。

Uninvisible / Medeski Martin And Wood (2003 Blue Note)