「B-2ユニット」はベトナム戦争当時、米軍の野戦食に用いられた缶詰の名称です。それをタイトルに持ってきた坂本龍一のソロ・アルバムには、同じくベトナム戦争でも使われたCIAの偵察機「E-3A」という曲も含まれています。この戦争はまだ昨日のことでした。

 坂本はこの当時「地獄の黙示録」の「病んだ現代性っていうものに、影響されていたと思うんです」と語っており、最後には米軍を打ち負かしたベトコンの側に立って、YMOのステージで迷彩服を着ていたりしたそうです。当時はまだ政治が身近でした。

 さて、本作品は1980年に発表された坂本のセカンド・ソロ・アルバムです。無名の若者だった前作「千のナイフ」の頃とはまるで異なり、この時、坂本はYMOで大変な人気を博していました。本作品も少年ジャンプに1ページ広告が出たほどです。

 YMOでいえば「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」後、「BGM」前という、子どもにも大変な人気があった時期です。そのためメンバーのソロを出そうという機運になり、高橋幸宏の「音楽殺人」、坂本の本作品、少し遅れて細野晴臣の「フィルハーモニー」が誕生しました。

 坂本はXTCの「アンディ・パートリッジのソロ・アルバム(『テイク・アウェイ』)にものすごく刺激を受けていたんで、ああいうものを作りたかったんです」と、本作品の制作動機を明かしています。本作品は比較的その意図に忠実な作品となっています。

 本作品は難解だと評されることが多いです。確かにポップ全盛の頃のYMOを期待していた人々には驚きの前衛音楽だったのかもしれませんが、アンディはもとより、英国ニュー・ウェイブのダブ・サウンドなどとは地続きなのでそんなに敬遠しなくても、と思います。

 実際、本作品は15万枚も売れたそうですから、普通に楽しんだ人も多かったはずです。私などには、音楽そのものよりも、教授と言われるだけあって坂本自身による解説が何倍も難解です。いちいち意味がありそうで恐ろしいです。

 本作品にはアンディ・パートリッジも参加しています。アンディに「テープを送って、彼は一日でそれをやってるんですよ。勝手にやって送り返してきた」と現代風なやりとりです。他にはグンジョーガクレヨンの組原正、YMO人脈で大村憲司の両ギタリストが参加しています。

 そしてプログラミングで松武秀樹、ほぼこの陣容です。プロデュースは坂本自身とパス・レコードの後藤義孝でダブ的な手法を駆使して、編集に編集を重ねて制作されています。組原の特徴的なギターもここでは加工されていて、いわゆるギターとしては目立ちません。

 この当時のエレクトロニクスなので、三味線のようにぱっつんぱっつんな音が目立ちますが、全体に後のテクノ・サウンドを先取りしたようなサウンドです。アフロビートを採り入れた「ライオット・イン・ラゴス」などは少し毛色が違いますが。

 どこか現代音楽風な香りもしますし、坂本の解説を読んでいると気軽に曲について云々することに気後れしてしまいますが、実際には何やら楽しげな音楽です。午後の陽だまりの中で聴くのが似合うサウンドで、牧歌的な気分さえ漂います。

B-2 Unit / Riuichi Sakamoto (1980 Alfa)