バンコは銀行、バンコ・デル・ムトゥオ・ソッコルソは共済銀行という意味ですから、およそロック・バンドに相応しくないバンド名です。ただ、プログレッシブ・ロックっぽい気はしないではありません。日本では通称バンコ、意味を気にしなければキャッチーな響きです。

 イタリアのプログレッシブ・ロックと言えば、まずイ・プー、そしてPFM、そしてバンコ、というのが日本で紹介された順番じゃなかったでしょうか。ここではまってしまった人はどんどんと深い森に引きずり込まれてしまうという寸法でした。

 バンコはその名にちなんで壺型の貯金箱型変形ジャケットで1972年にアルバム・デビューを飾っています。本作品はバンコの三枚目のアルバムで発表は1973年11月です。ハイペースのアルバム発表です。充実していたんでしょうね。

 本作品もまた変形ジャケットです。ジャケットはちょっとした絵本になっており、見開きの片方に写真、もう片方に歌詞の組み合わせが全5曲分10ページにわたって配されています。写真は表紙の扉を開けた先にある中庭を舞台にしたドラマ性豊かなモノクロ写真です。

 もうこのジャケットだけで本作品が一大プログレ絵巻であることが分かります。一から十までプログレ、極めて純度の高いプログレッシブ・ロックが展開していきます。イ・プーやPFMよりもよりイタリアのプログレの森の奥深くにあるサウンドです。

 バンコはヴィットリオとジャンニのノチェンツィ兄弟を中心としたバンドで、二人のツイン・キーボードが大きな魅力の一つです。さらに本作品にはマルチェッロ・ドダーロと、ゲストながら次作から正式メンバーとなるロドルフォ・マルテーゼを加えたツイン・ギターになっています。

 こんな分厚いサウンドでフランチェスコ・ディ・ジャコモのボーカルの魅力を最大限に生かす構築美溢れる曲を演奏するのですから、これはプログレッシブ・ロックの王道であるとしか言いようがありません。イタリアらしい地中海の風味がこれを彩っています。

 イタリアのプログレと言えばこの人、片山伸さんのライナーによれば、ヴィットリオは1997年の打ち上げの席で、「自分の持つ音楽論として、クラシック音楽とロックとの整合に関して熱く語ってくれた」そうです。「融合」ではなく「整合」。

 「自分の曲が『作曲された楽曲』として長く残る作品でなければならない」との信念のもとに「緻密に計算されたうえで構築されたもの」として作品を作っているそうです。ピエルイージ・カルデローニの怒涛のドラムがあったにしても、確かにこれはもうクラシックです。

 楽譜が存在して指揮者がいるかのようなサウンドで、グルーヴがクラシックです。まるでバロック音楽を聴いているような気になってくるところが素敵です。イタリアン・プログレの真骨頂を見る思いです。まだまだ森は広く深いのですが。

 なお、バンコは1975年にエマーソン・レイク&パーマーが設立したマンティコア・レーベルから、PFMに続いて全世界に紹介された際、英語詞の編集盤を出しましたが、本作からは全5曲中3曲が収録されています。それだけ本作が自信作であったということでしょう。

Io Sono Nato Libero / Banco del Mutuo Soccorso (1973 Ricordi)