ザ・ベストテンを毎週欠かさず見ていた者にとって、「ルビーの指環」はけして忘れることが出来ません。12週連続1位という番組史上最長記録を打ち立て、さらに「シャドウ・シティ」、「出航」を加えた三曲が同時にトップ10に入ったこともありました。

 オリコンなどよりもザ・ベストテンでしたが、もちろんオリコンでも本作品は週間ばかりではなく1981年の年間1位を記録する大ヒットを記録しています。上記3曲を含む本作「リフレクションズ」もLP史上4枚目のミリオン・セラーになり、これまた年間1位でした。

 要するに1981年を代表する特大ヒットなわけです。しかも突然のヒットだったためにとりわけ印象深いです。俳優としての寺尾聰は石原軍団所属で、人気番組「西部警察」にも出演していましたし、宇野重吉の息子さんとしても有名でしたけれども、歌手だったとは。

 しかし、寺尾はもともとグループサウンズのザ・サベージ出身でした。「いつまでもいつまでも」で有名なバンドでした。その後、俳優デビューしましたが、音楽活動も地道に続けており、本作からの「シャドウ・シティ」は4枚目のシングルでした。

 後にヒットしたものの同曲と続く「出航SASURAI」は発表当時はぱっとしませんでした。それをひっくり返したのが続く「ルビーの指環」でした。印象的なギターのリフで始まる小粋なラブ・ソングは瞬く間に世の中を席巻したのでした。

 このアルバムは「ルビーの指環」がヒットの兆しを見せた時期に発表されています。けして人気に便乗したわけではありません。寺尾のデビュー・アルバムとして当初から計画されていた作品です。編曲はすべて井上鑑が担当した統一感が半端ないアルバムです。

 作曲はすべて寺尾自身、作詞は「ルビーの指環」を含む3曲が松本隆、「シャドウ・シティ」と「出航SASURAI」を含む7曲が有川正沙子の手になります。演奏は井上の他に今剛、林立夫、向井滋春など当時一流のセッション・ミュージシャンが担当しています。

 「ギター・サウンドをほどこした、洒落た大人のポップス」と紹介されており、日本のAOR、シティ・ポップの名盤などと言われることが多い作品です。井上は確かに当時のAORを消化したアレンジを施しており、隙のないサウンドがかっこいいです。

 ただ、本作は雑食性の高い歌謡曲のうちAOR路線の完成形ととらえた方が分かりやすいです。本作品が「ルビーの指環」とともに達成したシングル・アルバム共に年間1位の記録はぴんからトリオ、ピンクレディーに続く3組目だという並びに歌謡曲の底力をみます。

 シティポップには距離を感じるけれども演歌はちょっと、という層を見事に取り込んだ作品だと思います。当時、流行し始めていたカラオケの定番として、大人のハートを射抜いたのでした。すべてがちょうど良い作品です。

 昭和を感じるメロディーと隙のない演奏、一人多重録音のボーカルがまた優しい。LP時代のミリオンセラーの中ではコアなファン層をもたない異質のアルバムです。稀代の名曲「ルビーの指環」は奇跡であったのでしょう。奇跡を抱えたアルバムもまた奇跡です。

Reflections / Akira Terao (1981 Express)