ゴシック・ロックの元祖とも言われるバウハウスの正真正銘の3枚目のアルバムなのですが、発表当時はおまけに付けられたライブ・アルバムの印象が強くて、むしろこちらがおまけのように感じてしまっていました。豪華なおまけはあまりよろしくありません。

 ライブの方は「プレス・ジ・イジェクト・ギヴ・ミー・ザ・テープ」と題されており、驚異のデビュー曲「ベラ・ルゴシズ・デッド」から、ファーストとセカンド・アルバム所収の人気の高い曲などで構成されていました。それまでのベスト盤的なライブです。

 それに対して、本編である「スカイズ・ゴン・アウト」はシングル・カットされた「スピリット」やブライアン・イーノのカバー「サード・アンクル」など派手目な曲はあるものの、初期のバウハウスのサウンドからはより実験的な方向に舵を切った地味なアルバムだと感じました。

 その印象は彼らの最大のシングル・ヒットであるデヴィッド・ボウイのカバー曲「ジギー・スターダスト」の直後のアルバムであるにもかかわらず同曲が収録されていないことも一役買っているように思います。収録していてもよかったのに。

 とはいえ、本作品は彼らのアルバムの中では初めて英国でトップ10に入る大ヒットとなりました。これは「ジギー・スターダスト」のおかげであり、ライブ盤のおかげではないかと思います。こんな地味なアルバムが前2作よりも売れるはずがない。

 と、発表当時の印象をつらつらと書き綴ってきました。当時、バウハウスのあまりに隙のないかっこよさに魅了され、その暗黒サウンドをアイドル視していた若者からすれば、ちょっと置いて行かれたような気になる3枚目のアルバムだったわけです。

 そんな当時の気分を横に置いて本作品に向き合うと、これはとても良いアルバムであるわいとしみじみと感じてしまいました。スピード感あふれる力強い「サード・アンクル」から始まるA面は従来型のバウハウスの延長にあるサウンドを展開しています。

 いわゆるゴシック的な「サイレント・ヘッジズ」、名曲「ダブル・デア」のリメイクのような「イン・ザ・ナイト」と続けて、ダークな「スウィング・ザ・ハートエイク」を挟み、「スピリット」の派手な再録音とピーター・マーフィーのボーカルが大活躍するのがA面です。

 これに対し、B面はダニエル・アッシュのギターが語るかのような「スリー・シャドウズ」3部作を筆頭に、皮肉なタイトルの「オール・ウィ・エバー・ウォンテッド・ワズ・エヴリシング」、最後はいびきの音まで入れた何でもありの「エクスクイジット・コープス」で締めています。

 バウハウスのサウンドはベースのデヴィッドJとドラムのケヴィン・ハスキンスの兄弟が紡ぎ出すダークなビートをアッシュのエフェクトを効かせた幻想的なギターが彩る何とも不思議な世界が特徴です。それを極限まで推し進めたのがB面と言えるでしょうか。

 ジャケットはまるで墨絵のようです。ギターのダニエル・アッシュが描いた外側に滲みだす円は彼らのサウンドを物語って余りあります。こんなアルバムを見逃していた若い頃の私に説教をしてやりたい気になりました。いいアルバムです。

The Sky's Gone Out / Bauhaus (1982 Beggars Banquet)