フリートウッド・マックの4作目「キルン・ハウス」です。これはマックのメンバーが家族ともども共同生活を送っていたお屋敷の名前をとった題名だそうです。ヒッピーの香りがします。時は1970年、サイケデリック時代の名残が続いていました。

 さて、前作からの1年間にフリートウッド・マックからは実質的なリーダーだったピーター・グリーンが脱退してしまいました。英国を越えて世界的な成功が視野に入ってきたところで、その重圧に耐えきれなかったということだそうです。

 バンドは解散も考えましたが、何とか踏みとどまって本作品を制作します。ここでミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーのリズム隊が支えているのは、ジェレミー・スペンサーとダニー・カーワンの二人のギタリストです。頑張りました。

 スペンサーは前作にはほとんど参加していませんでしたが、ツアーではメンバーの一員としてずっとステージに立っていましたから、厳密には出戻りというわけではありません。本作品ではグリーンの穴を埋めて、大活躍しています。

 グリーンとカーワンの波長がきわめてうまく合っていたことから、スペンサーはやや疎外されていたそうで、それが前作への不参加だったり、ステージ上での過激なパフォーマンスへとつながっていった節があります。グリーンの不在はスペンサーに自覚を促したのでしょう。

 本作では前作でのグリーンの役目をスペンサーが果たしており、半分をカーワンにまかせて、残りの半分でスペンサーの持ち味を存分に発揮しています。それは1950年代のサウンドへのオマージュであり、パロディーであると言われます。

 確かにバディー・ホリーの「ペギー・スー」にホリーの曲名を織り込んだ「バディーズ・ソング」や、「ハイ・ホー・シルバー」、「ミッション・ベル」など1950年代の曲のカバーが目立っており、グリーンとは異なる持ち味のフリートウッド・マックが堪能できます。

 一方のカーワンの曲は前作から地続きで、ますます自信を深めてきた様子がみられます。私が好きなのはインストゥルメンタル曲「アール・グレイ」です。ゆったりとした大らかな曲で二人のギターが絡む様子は心が安らぎます。

 スペンサーはエルモア・ジェイムス的なスライド・ギターが得意で、幾分ポップな持ち味のカーワンとはスタイルが違いますけれども、その違いがフリートウッド・マックのサウンドに味わいを与えています。バトルしていないギター・バトルが素敵です。

 ところで本作品のジャケットはジョンの奥さん、クリスティンのデザインです。彼女はマックとならぶ三大ブルース・バンドのチキン・シャックに在籍していたミュージシャンで、グリーンの後任としてマックに加入しました。本作にクレジットはありませんが少しは参加しています。

 本作品は英国では前作には及びませんでしたが、米国では初めてトップ100に入るヒットを記録しました。グリーン・カーワンのマックとスペンサー・カーワンのマック。大西洋をはさんで売れ方が異なるのはなぜなのかとても興味深いです。

Kiln House / Fleetwood Mac (1970 Reprise)