年に一枚はスタジオ・アルバムを発表するというのがマークEスミスの公約だったはずですが、2002年はとうとうスキップされてしまいました。本作「ザ・リアル・ニュー・フォールLP」はほぼ2年ぶりとなる2003年10月発表の新作です。スタジオ作としては24枚目です。

 作品発表に時間がかかった理由の一つは、当初のミックスをマークが気に入らず、すべてをやり直したからということです。マークの説明ぶりが奥歯にものが挟まったようですが、「ロンドンからやってきた***」のせいです。

 3月には出来上がっていた当初ミックスがインターネットに流出したため、アルバム・タイトルも「カントリー・オン・ザ・クロック」から「リアル・ニュー・フォールLP」へと変更されました。バタバタしていた様子はCDの背表紙には旧名しか書いていないことでも分かります。

 さて、前作後の米国ツアーで新たなフォールに可能性を感じたマークでしたが、メンバーはまた半分代わりました。ギターのベン・プリチャードとベースのジム・ワッツが居残り組で、新しくドラムにデイヴ・ミルナー、キーボードにエレニ・プールーが加わりました。

 エレニは2001年にマークと結婚しており、その翌年からバンドにも加わっています。当初はどうだったのか分かりませんが、完成作のプロデューサーは旧友グラント・ショウビズ・カンリフが担当しています。ザ・フォールを知り尽くした男です。

 本作品は、もはやザ・フォールにこんな作品が作れるとは思っていなかった人々をその出来栄えで驚かせた、とマーク自身がつぶやく素晴らしいアルバムです。メンバーは変わっても、マークがいれば大丈夫だということを如実に表しています。

 いつものように一丁目一番地には強力な曲「グリーン・アイド・ロコ・マン」が配されていて、印象的なギター・リフが繰り返される中毒性の高いこれぞザ・フォールというサウンドが展開していきます。ここで虜にさせられ、後は一気呵成に聴けてしまいます。素晴らしい。

 最も有名な曲は「テーマ・フロム・スパルタFC」で、BBCの番組テーマに採用されて人気を博しました。この曲、作詞はもちろんマークですが、作曲はジム・ワッツです。マークはこの曲の印税の3分の2をジムに支払っているそうです。

 この曲もそうなのですが、本作の曲の大半は素人同然のメンバーが作曲しています。たとえば「プロテインプロテクション」などは高校生バンドの曲のようです。また、ドラムにしてもギターにしてもお世辞にも上手い演奏とは言えません。

 ところが、日常会話でも脚韻を踏むと言われるマークが歌詞をつけて歌い、ザ・フォールらしいアレンジが施されると、見事に生まれ変わるから不思議です。流出した当初ミックスと聴き比べると、マークの仕事の見事さがよく分かります。シンプルにびしっとしまっています。

 ♪住宅ローンを借りるには収入制限があるなんて知らなかった♪などと愚痴をたれる歌詞も実は深い。ザ・フォールにはまる人は歌詞にはまるといいますが、サウンドにはまる人も多いはず。ザ・フォール21世紀第一弾は大傑作でした。

参照:"Renegade" Mark E Smith (Penguine)

The Real New Fall LP Formerly 'Country On The Click" / The Fall (2003 Action)