カルロス・サンタナのソロ・アルバム第三弾です。発表は1983年です。1980年代のサンタナは1981年の「ジーバップ」の大ヒットで始まっており、本作品が発表された頃はまだ出すアルバムがすべてゴールド・ディスクになる手堅い人気ぶりでした。

 そんな時期ですからソロとなる本作品「ハバナ・ムーン」はいかにも余裕綽々のアルバムになっています。さまざまなミュージシャンを巻き込んで、満願飾の仕上がりになっており、最後には家族の思い出の曲をお父さんが歌うという遊び心満載の作品です。

 そもそもアルバムのアイデアは、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」を手掛けたことで有名なプロデューサー、ビル・シムジクがチャック・ベリーの「ハバナ・ムーン」を一緒にやろうとしつこくカルロスに言い続けたことから生まれました。まずアルバム・タイトルが決まります。

 もう一つのきっかけはカルロスがファビュラス・サンダーバーズに惚れ込んだことです。彼らはローリング・ストーンズやエリック・クラプトンのオープニングを務めるなど、そのブルース魂がアーティスト仲間に高く評価されているバンドです。参加メンバーが決まりました。

 プロデューサーにはアトランティックの大物プロデューサーのジェリー・ウェクスラーとマッスル・ショールズのベテラン・キーボード奏者バリー・ベケットが起用され、さらに音楽面を担当する共同制作者としてブッカー・T・ジョーンズが選ばれました。制作陣が決まります。

 アルバムはまず「ワッチ・ユア・ステップ」で始まります。ブルース歌手ボビー・パーカーの曲で、「この曲を聴くたびに、ティファナにいた若い頃の思い出がよみがえってくる」とカルロスは思い出の歌であることを白状しています。これがおっと驚くハード・ロック仕様です。

 ホーンにはタワー・オブ・パワーが起用されたこの曲を皮切りに前半はサンタナにしては珍しいブルースやロックン・ロール全開のナンバーが続きます。ボ・ディドリーの「フー・ドゥ・ユー・ラヴ」やジョン・リー・フッカーに捧げた「マッドボーン」などかっこいいです。

 しかし、B面に移ると、カルロス節が色濃く表れてきてほっとします。B面最初の短いインストゥルメンタル「エクアドル」は「太陽と、それがもたらしてくれる暖かさに対する儀式の曲」。スピリチュアルがくるとほっとするのはカルロス・サンタナならではです。

 続く「キリマンジャロの伝説」はヒット作「ジーバップ」にも入っていた人気曲で、実はこちらが「私が最も好きなファースト・ヴァージョンだ」とカルロス。ここでようやく「ハバナ・ムーン」が来ます。チャック・ベリー作だと言われないと分からない南国ムード漂う名曲です。

 ここからメキシカンな雰囲気が濃厚になり、ウィリー・ネルソンが歌う「星降るメキシコ」へと進んでいきます。そして最後はマリアッチなセレナーデ「ベレーダ・トロピカル」で父親が唄い、母親が昔を思って涙するという心温まるエピソードで終わります。

 ソロだからというのもあるのでしょうが、アルバムの構成がとにかく素晴らしいです。のちにモンスター・ヒットを飛ばすサンタナの片鱗はここに表れています。好きなミュージシャンを使って、さまざまな曲調の楽曲を見事なシークエンスで聴かせる。かっこいいです。

Havana Moon / Carlos Santana (1983 Columbia)