ビアギッテはホッピー神山と藤掛正隆によるユニットです。ここに巻上公一が加えたトリオは横浜にあるストーミー・マンデーにてライブを行いました。本作品はそのライブを収録したアルバムです。全体で67分ありますから、ライブをほぼ丸ごと収録したのだと思います。

 ホッピー神山は日本の音楽界の裏番長ともいえる才人です。一方の藤掛正隆はかつてゼニゲバというバンドで活躍していたドラマーです。時に渋さ知らズにも参加したり、さまざまなセッションに引っ張りだこの怒涛のドラマーです。

 藤掛は1999年にフルデザインレコードを設立し、以降、コンスタントにさまざまなアーティストによるロックをベースにしたノンジャンルないしはフリーな音楽、音楽評論家の小島智さんの命名によるアヴァン・ミュージックの作品をリリースし続けています。

 この二人によるユニット、ビアギッテは2010年に結成して以来、コンスタントに活動を続けており、本作品が4枚目のアルバムとなります。前作からは4年の月日が流れていますが、二人の活動はこれだけではありませんから、さもありなんという感じです。

 このデュオは「ホッピー神山のミニ・ムーグを中心とするエレクトロニクス、ボイスと藤掛正隆のドラムス&エレクトロニクスによる即興ポップ・デュオ」です。極めて「単純明快かつ大胆シンプルな構成を軸に」した、即興バトルがデュオの身上です。

 本作ではここにこれまた「即興の超人」巻上公一を迎え、トリオにパワーアップして、三つ巴のバトルを繰り広げています。巻上は彼のトレードマークであるボイスに加え、テルミンやコルネット、尺八に口琴を演奏しているとクレジットされています。

 ただし、「イヨマンテの夜」の濃厚な巻上ボイスを思い浮かべると拍子抜けします。ここでの巻上の声はホッピーの声とあまり区別がつきません。ことさらに主張するわけではなく、あくまで楽器の一つとしてのボイスに徹しているようです。

 全部で5曲に分かれており、「ジャーマンサイケ、ニューウェーブ、ノイズ...形容のつけがたいユニークな」サウンドは、テルミンが目立つ巻上の乱入でより一層複雑なインターアクションとなり、緊張感の高いものになっています。
 
 背骨となっている藤掛のドラムがいいです。表情豊かなドラムですけれども、ロックを強く感じるドラムです。そこが私などからすれば大変安心して聴けるところであり、あれこれ考えずにとにかく胸が躍ります。中心がしっかりしているととにかく安定しています。

 ライブを一発録りしたとはとても思えない完成度の高さです。音響も素晴らしい。私と年代的に近い三人の創り出すロックをベースとしたサウンドには懐かしさすら感じて、明日も頑張ろうという気にさせてくれる、強壮剤のような作品です。

 私は藤掛さんにホッピーさんのイベントでお会いしたことがあるんですが、その時は全く彼のことを知らず、たまたま隣に座ったので、「何か楽器を弾かれるんですか?」「はあ、まあドラムを少々」「どんなドラムですか?」「まあ、いろいろです」。反省することしきりです。
 
A World Apart / Birgit x Makigami Koichi (2020 Fulldesign)

Sorry, no video!