イル・マエストロと呼ばれるフランコ・バティアートはイタリアの音楽家にして映画監督、さらには画家として国際的に名をはせるアーティストです。1965年に二十歳でデビューしてからマエストロとして2020年現在にいたるまで長期にわたって活動している偉い人です。

 もちろんそんな彼にも若い頃があります。シンガーソングライター、イタリア語でカンタトゥーレとしてデビューしたバティアートでしたが、しばらくはぱっとしませんでした。そんな彼が本領を発揮するのは、1972年に新興レーベルのブラ・ブラとソロ契約を結んでからです。

 バティアートはブラ・ブラの方向性と軌を一にして、カンタトゥーレとしてスタートしたとは思えない前衛的なプログレッシブ・ロックを展開します。しかも、デビュー・アルバムとなった「胎児」を発表すると、同じ年にこの「汚染」を発表するという充実ぶりです。

 ジャケットはレモンをボルトで締め付けて、その果汁が大地を汚染していくというコンセプトです。この頃から深刻化していた環境問題を訴えかけるコンセプト・アルバムに相応しいのかどうか、賛否両論分かれるところですが、どうでしょう。

 このジャケットを含むアートをコーディネートしたのはジャンニ・サッシです。彼は後にあの有名なクランプス・レコードを設立して、現代音楽やジャズ、プログレなど先鋭的な音楽を続々とリリースすることになる重要人物です。

 ここで聴かれる音楽は、「ロック、ポップス、ジャズ、フォーク、クラシック、現代音楽、民族音楽等を様々にコラージュして作り上げる」前作同様の手法を用いて、「よりすっきりとまとまった感のある傑作となった」と紹介されています。

 しかし、これでは先鋭的なプログレ・サウンドであること説明しているだけです。中身は続く「イタリアらしい郷愁と哀愁が漂いながらも、実験的アプローチ満載のおもちゃ箱的サウンド」とつづられて、ようやく少しだけ見えてきます。

 作品は強烈にコンセプト・アルバムです。CDでの再発にあたって、冒頭と最後の曲はそれぞれ隣の曲との組曲とされました。最初が「騒音の静けさ~1999年12月31日9時」の並びです。いかにもイタリアなストリングスから始まります。

 最後は「汚染~きみは時分がどんな役割を持っているか自分に問いかけたことがあるか?」で、シンセサイザーを駆使した不気味なサウンドで始まる一大サウンド絵巻です。この問いかけは冒頭の曲ですでに問われており、ここに強烈なコンセプトを感じます。

 挟まれた三曲「アレクナメス」、「ベータ」、「プランクトン」もそれぞれがピンク・フロイド的なプログレであり、アシッド・フォークであったりと、振れ幅は大きいものの、きっちりとアルバムのまとまりに貢献しています。またバティアートのボーカルが強烈です。

 コンセプトの詳細は難解でよく分からないのですが、メッセージ自体はクリアですから、さほど深入りしなくても大丈夫です。イタリアン・プログレらしい、端正であり、かつ哀愁が漂うという王道サウンドではありますが、まだ初々しい響きがいいです。巨匠の原点です。

Pollution / Franco Battiato (1972 Bla Bla)