「マイルス・デイヴィス&ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ」とはよくも名付けたものです。アルバムの発表は1959年5月ですから、録音時点ではそうでもなかったはずのマイルスやセロニアス・モンク、ジョン・コルトレーンなどもしっかりジャイアンツになっていました。

 この作品は1954年クリスマス・イヴのマイルスとモンクのセッションに、1956年10月のいわゆる「マラソン・セッション」からの曲を加えて12インチ・アルバムとして発表されたものです。例によって複数のメンバーも異なるセッションのつぎはぎとなっています。

 10インチから12インチへの過渡期にあったからだと好意的に解釈していましたが、どうやらプレスティッジ・レーベルはLPは単に収録時間が長いだけだと思っていたのではないかという気がしてきました。販売戦略もあったのでしょうね。

 本作品の中心になっているのは1954年クリスマス・イヴのセッションで、メンバーはバイブのミルト・ジャクソン、ベースのパーシー・ヒース、ドラムのケニー・クラークというモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)組とマイルスにモンクのクインテットです。

 元は10インチLPで発表されていた3曲に「ザ・マン・アイ・ラヴ」の別テイクを加えた4曲です。名作「バグズ・グルーヴ」に1曲だけ含まれていましたから、本当はそちらをここに足して一枚のアルバムにしてしまえば後世の私たちには嬉しかったのに。

 このセッションではマイルスとモンクの間にいさかいが生じたという伝説が残っていますが、マイルスによれば「オレはただ、モンクが作った『ベムシャ・スウィング』以外では、オレのソロのバックでピアノを弾くな、休んでろ、と言っただけ」です。

 モンクは「トランペットとの演奏は得意じゃなかった」とマイルスは感じていたようです。それでもこのセッションでの二人の共演は素晴らしいです。喧嘩や口論があったとは思えません。大たいマイルスは殴り合いではモンクにはかなわないと認めていますし。

 曲はガーシュウィンの「ザ・マン・アイ・ラヴ」をテイク違いで2曲、マイルス・オリジナルの「スウィング・スプリング」、そしてモンクの「ベムシャ・スウィング」です。別セッションからの曲「ラウンド・ミッドナイト」はモンクの曲だというのが同居の理由のようです。

 「ラウンド・ミッドナイト」はいわゆるマラソン・セッションの1曲で、こちらはコルトレーン、ピアノのレッド・ガーランド、ベースのポール・チェンバース、ドラムにフィリー・ジョー・ジョーンズのクインテットで、マイルスの当時のレギュラー・バンドでした。

 二つのセッションを聴き比べられるのがこのアルバムの面白さではあります。コルトレーンの太いサックスとジャクソンの弾けるバイブの対比が際立つのは当然ですが、しなやかなケニーと力強いフィリー・ジョーのドラムの対比もなかなかのものです。

 クリスマス・セッションはこちらがメインなのにどうしても「バグズ・グルーヴ」に人気で劣ってしまいますが、そこは「ラウンド・ミッドナイト」で補うこととして、モンクとマイルスの共演に胸を熱くすること請け合いのこの作品にも頑張ってほしいものです。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

Miles Davis and the Modern Jazz Giants / Miles Davis (1959 Prestige)