虫のグルーヴかと思っていましたが、違いました。UではなくAですし、そもそもバグズというのはタイトル曲で素晴らしいバイブを聴かせるミルト・ジャクソンの愛称なのでした。本人の名前を冠しただけあって、ジャズ史に残る名曲です。

 本作品はマイルス・デイヴィスの作品の中でも人気の高いアルバムですが、これまた過去の10インチを編集したLPです。タイトル曲が「マイルス・デイヴィス・オール・スターズ」の第一集、4曲が「マイルス・デイヴィス・ウィズ・ソニー・ロリンズ」、そこに別テイク2曲の構成です。

 タイトル曲は1954年のクリスマス・イヴのセッションで、マイルス、パーシー・ヒースのベース、ケニー・クラークのドラム、ミルト・ジャクソンのバイブ、セロニアス・モンクのピアノという布陣です。同セッションからの曲は別アルバムにまとまっているのが何とも切ないですね。

 本アルバムの残りの曲はマイルス、パーシー、ケニーのトリオに、ピアノにホレス・シルバー、テナー・サックスにソニー・ロリンズを加えたクインテットによる1954年6月のセッションで、まるでクリスマス・セッションとはテイストが異なります。

 「ウォーキン」を作り上げて自信を深めたマイルスはレギュラー・バンドの結成を考え始めていました。白羽の矢が立ったのがこのクインテットです。ここでの演奏は素晴らしいのですが、ロリンズが刑務所を出たり入ったりしていたため、結局レギュラーにはなりませんでした。

 このクインテットには「細かい陰影をつけることができて、変化にとんだ演奏ができる」ケニーがドラムに選ばれ、期待通りの演奏を繰り広げています。そして何といってもロリンズです。ここでは4曲中3曲がロリンズの作品となっています。

 ナイジェリアを逆に綴った「エアジン」、中村とうよう氏が「初めてファンキーという言葉を知った」というファンキーの元祖「ドキシー」、マイルスのミュートがかっこいい「オレオ」といずれもスタンダードとなっていく名曲ばかりです。

 ロリンズは予め曲を用意していましたが、「実際はスタジオで全部書き直した」のだそうです。勢いのある名曲らしい誕生秘話です。野太いロリンズのサックスがこの上なく小粋なリズム・セクションとからむ様子は素晴らしいものです。

 そのファンキーな名曲群と対照的なのが「バグズ・グルーヴ」です。同じセッションの太宗が別アルバムなので、こちらは弾かれた曲となるのが相場ですが、テイク違いを含めたこの曲がアルバム全体の評価を決定づける名曲なので始末が悪いです。

 冒頭から耳に残る有名なフレーズが流れてくるともういけません。マイルスのしっとりした繊細なソロと、モンクの何とも言えない深みのあるソロ、そしてソロもとりつつ両者とも絡むジャクソンの演奏の見事なこと。名曲中の名曲、名演中の名演でしょう。これぞモダンジャズ!

 「バグズ・グルーヴ」の見事さに酔いしれた後に、ロリンズとの迫力のあるセッションを聴くというのも考えてみれば目先が変わって良いのかもしれません。そこまで考えていたとしたらプレスティッジもただ者ではないということでしょうか。

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)

Bags Groove / Miles Davis (1957 Prestige)