森高千里の2枚目のベスト・アルバムです。オタクのアイドル、サブカルの女王全開だった前回のベスト盤から4年、森高はすっかりメイン・ストリームのJポップ・アーティストとなりました。両者のジャケットを比べれば一目瞭然です。

 本作品にも恒例のフォトブックレットが付属していますけれども、それを眺めてももはやミニスカ女王の面影を見ることは難しく、まるで王道ファッション誌のような写真ばかりで埋め尽くされています。現在に通じる森高像はここで完成しています。

 とはいえ、初期の森高像を追い求めていた私などは、「ロックンロール県庁所在地’95」や「私がオバさんになっても」、さらには「ハエ男」などにザ・森高を見て嬉しがったりしていました。さすがに歌詞の切れ味が鋭いと喜んでいたものです。

 要するに「雨」や「渡良瀬橋」を見逃していたわけです。当時のメディアも同罪ではないでしょうか。オタクを中心とするコアなファン層を持つカルトなアイドルから、女性も含めた幅広いファン層に訴えかける森高を認めたくなかったということでしょう。

 今から思えば、森高千里は最初からさほど変わっていなかったのかもしれません。それを物語るのが人気の高いバラード「雨」でしょう。1990年のこの曲は、唯一「ザ・森高」にも収録されていた楽曲です。今でも「カラオケでもよく歌われている」から収録したそうです。

 この作品に収録された作品の多くはテレビCMやドラマやバラエティーのテーマソングとなっています。しかもCMは全日空、サントリーといった超一流企業ばかり、メジャーシーンでの森高千里の人気ぶりが分かるというものです。超王道アーティストです。

 全日空は「私の夏」、サントリーは「気分爽快」、「素敵な誕生日」です。彼女の強みは発注を受けると、効果的なシチュエーションを考え出して作詞をするところにあります。たとえば「私の夏」は「女友達と、気がねせずにハメをはずして楽しめる沖縄」です。

 今やスタンダードとなった「渡良瀬橋」もテレ東の旅番組のエンディングテーマで、「旅情のある詞にしたくて」、地図帳の索引から「渡良瀬川」を見つけ、道路マップで橋が実在することを確認し、現地調査を敢行して「イメージをふくらませて書き上げ」ています。

 何と真摯な仕事ぶりでしょう。頼まれたわけでもない、縁もゆかりもない場所のご当地ソングなのにすっかり地元に定着したのも頷けます。実際の地名は♪渡良瀬橋♪、♪渡良瀬川♪、♪八雲神社♪だけなのに、この渡良瀬尽くし感はどうでしょう。凄いです。

 楽曲は斉藤英夫と高橋諭一という森高とのコラボをステップにJポップ界に大きく貢献することになる二人が中心です。森高は先のベスト盤以降、本格的にドラムやギターなどの楽器を演奏するようになっており、本作収録曲の多くはバンドスタイルとなっています。

 すでに電子楽器が多用される時代ですけれども、あえてプリミティブなバンドにこだわったところがいいです。その手作り感覚を残したところが1990年代のJポップを代表するサウンドとなった所以でしょうか。面白いアーティストです。

Do The Best / Chisato Moritaka (1995 One Up Music)