ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズは新作「カヤ」のプロモートもかねて、アメリカとヨーロッパにて3ヶ月に及ぶ通称「カヤ・ツアー」を行いました。本作品「バビロン・バイ・バス」はこのツアーの模様を収録したライブ・アルバムです。

 このツアーの直前、1978年4月にはマーリーは約1年半ぶりにジャマイカの地を踏み、「ワン・ラヴ・ピース・コンサート」に出演しました。そこでジャマイカの政界を二分するマイケル・マンリーとエドワード・シアガの両巨頭を握手させるという大きな成果を上げています。

 マーリーの政治的な影響力がいかに大きいかを示しましたが、両巨頭の選挙戦はこの後さらに熾烈を極め、多数の死者を出しますから、その限界も露呈することになりました。もっとも、マーリーの与えた影響というのはもっと長くて深いものがあるのでしょうが。

 このツアーの直後に彼らは「バビロン・バイ・バス」ツアーでアジア・オセアニアを訪れます。1979年4月には日本にもやってきて熱狂的なファンに迎え入れられました。ポール・マッカートニー事件を知っている私たちにはこのツアーが実現したことが奇跡でした。

 本作品はパリ、コペンハーゲン、ロンドン、アムステルダムのライブ音源で構成されています。大部分はフランスのパヴィヨン・ドゥ・パリの3夜公演からの音源だそうです。ツアー開始は1978年5月、パリ公演は6月ですからツアー初期の音源ということになります。

 ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズには出世作となった傑作「ライブ!」がありますから、2枚目のライブ盤となる本作でも当然前作を意識しないわけにはいきません。その結果でしょう、両者の重複はわずかに「ライブリー・アップ・ユアセルフ」1曲のみです。

 また「カヤ・ツアー」であるにも関わらず、「カヤ」からの曲は「イズ・ディス・ラヴ」のみです。選曲はエクゼキュティヴ・プロデューサーになっているクリス・ブラックウェルが主導したと思われますが、大いに呻吟した後が見られます。面白いです。

 ウェイラーズのメンバーは不動のリズム隊バレット兄弟はもちろんですが、タイロン・ダウニー、アルヴィン・パターソン、アル・アンダーソンにアイ・スリーと「ライヴ!」と同じメンバーがそろっています。ただし、ギターの中心は前々作からのジュニア・マーヴィンです。

 このロック全開のソロを弾くジュニアの存在が本作品の賛否を分けています。もともと流麗なギター・ソロとは相性が悪いレゲエ原理主義者にはすこぶる評判が悪いです。派手なプレイはなかなか味があって面白いと私は思うのですが。

 なお、メンバーには初期アルバムに参加していたアール・リンドも入っており、オールスターズ的な顔ぶれになっています。なんでもロサンゼルスではピーター・トッシュが飛び入り参加したとか。このファミリー感がたまりません。それだからこそ客席との大合唱になるのでしょう。

 「ライヴ!」ほどの勢いとまとまりはありませんけれども、スーパースターとなったマーリーの味わい深い歌と演奏が聴けるのはありがたいことです。わずかに3年ちょっとの間にレゲエはすっかり欧米でも市民権を得て、まるで違う光景のもとでの大らかなライブになりました。

Babylon By Bus / Bob Marley & The Wailers (1978 Island)