「サドゥー」とはインドの行者のことです。インドの仙人だと思えばよいでしょう。バラナシなどへ行けばサドゥーだらけですが、そこまで行かなくてもインド中で見かけることができます。インドの人は一般に敬虔なのでサドゥーは大事にされています。日本だと虚無僧でしょうか。

 アパッチ・インディアンの6枚目のアルバムは「サドゥー:ザ・ムーヴメント」と題されました。在英インド人であるアパッチは、レゲエとバングラを融合したバングラマフィンなどと呼ばれるサウンドで人気を誇ります。彼がサドゥーをタイトルに持ってきたことには意味があります。

 アパッチが綿々と語るところによれば、レゲエと言えばラスタファリアン、そのトレードマークであるドラッド・ヘアとガンジャはインドのサドゥーの特徴でもあるということです。そもそも19世紀後半に3万6千人ものインド人がジャマイカにわたっていますから信ぴょう性も高い。

 ドレッドヘアの起源はインドのシヴァ神にまでさかのぼります。シヴァは「ひねった髪の毛のふさ」をまとっており、ガンジス川を神格化した神ガンガーをそのふさで受け止めて、川の流れを穏やかにさせた、という話が記録されています。まさにドレッド・ヘアです。

 ガンジャはマリファナ、これまたインド陣がジャマイカに持ち込んだもので、治療薬として、あるいは瞑想の一助とするために使われていたものです。そもそもラスタとはヒンディーで道という意味です。ジャマイカとインドの文化は地続きなのでした。

 アパッチは「BOOM釈迦楽」の大ヒットで英国他では知られるようになりましたが、インドにとってしょせん英国は音楽辺境の地です。彼がインドで大きな人気を得るようになったのがインド映画に出演してからです。1996年のことで、ここで一気に火が付きました。

 そこからはインドでの人気の方が高くなったようで、このアルバムなどはインドのレーベルから発表されています。ゲストにはボリウッドのプレイバック・シンガーのスニディ・チョーハンやアリーシャ・チノイなどを迎えていることからも分かる通り、かなりインド仕様です。

 一方で、アパッチのツアーをサポートしていたバーミンガムのUKレゲエ・バンド、レゲエ・レボリューションが参加した曲「アイ・ラヴ・ユー」や「シェイディ」もあり、英国のヒップホップDJ、フリクションがプロデュースした曲もあって、ここは正面切ってレゲエです。

 また、フリクションを始め、プロダクションのクレジットがある人は全部で9人います。その中ではティンバランドやブリトニー・スピアーズなどとの仕事で知られるジム・ビーンズの名前が映えます。録音も、英米印に加えフィンランドまでと幅広いです。

 このように全体にはインド仕様となっているのですが、レゲエ、ヒップホップ、バングラ、インド・ポップとさまざまなスタイルを縦横に編み込んだ折衷スタイルのサウンドは健在で、アパッチの多芸多才なボーカルが存分に楽しめます。

 インド的ではありますが、こうしたスタイルは一般のインド人にすんなり受け入れられるわけではありません。しかし、アパッチ人気とグローバル化の効果で、インドでもこうしたサウンドが徐々に人気を得てきたことは大変喜ばしいことでした。

Sadhu - The Movemnt / Apache Indian (2007 Tips)