ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの「数あるライヴ・アルバムの中で、最も重要かつ感動的な作品」です。ボブ・マーリーを聴くならまずこのアルバム、ということで私もボブ・マーリー初体験はこのアルバムでした。熱いサウンドに若い胸は存分に熱くなりました。

 本作品は1975年7月18日にロンドンのライシアムにて行われた2回公演のうちの2回目を収録したライヴ・アルバムです。彼らは前作「ナッティ・ドレッド」をプロモートするために米国から英国をツアーしました。ロンドン公演は英国ツアーの皮切りにあたります。

 最初の公演は16日の公演でした。この日の観客の熱狂を目の当たりにしたアイランド社長のクリス・ブラックウェルは18日の公演を録音することをその場で決めたのだそうです。この判断は大成功で、本作でようやくボブ・マーリーは世界でブレイクすることになりました。

 ツアー・マネジャーの紹介を受けて登場したボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズは、ジャマイカ時代のシングル曲で自己紹介を兼ねたような「トレンチタウン・ロック」でショーの幕を開けます。そこからは英国でのアルバムに収録された代表曲を連打していきます。

 「バーニン・アンド・ルーティン」、「ゼム・ベリー・フル」、「ライヴリー・アップ・ユア・セルフ」、「ノー・ウーマン、ノー・クライ」、「アイ・ショット・ザ・シェリフ」、「ゲット・アップ、スタンド・アップ」の並びは圧巻です。このアルバムに収録されたから代表曲ということでもあるのですが。

 中でも最も愛されているのが「ノー・ウーマン、ノー・クライ」です。もはやイントロから観客が歌いだし、終始観客のコーラスとともにマーリーが歌い上げます。リズム・ボックスが目立った「ナッティ・ドレッド」のバージョンとは異なるエモーショナルな展開は圧倒的です。

 このバージョンはシングル・カットされて初めて英国で22位となるヒットを記録しました。マーリーが亡くなった後に再リリースされた際には8位まで上がっています。とにかく感動的な歌唱で、じわじわとこみ上げてくるものがあります。奇跡の演奏です。

 他方、曲の並びからも分かるように、マーリーからのプロテスト・メッセージも明快です。彼ほど歌詞に込められたメッセージを聴かせるアーティストはそういません。歌と演奏が歌詞のメッセージを嫌でも突き付けてきます。真摯な主張から逃れるすべなし。

 アルバムは公演での演奏に手を加えていないようです。ハーモニーの乱れもリズムがアップテンポになってしまうところもありのまま。愛にあふれた観客のざわめきもそのまんま。これがライヴの親近感をましています。本当にいいライヴだということが分かります。

 メンバーはマーリーにバレット兄弟、アル・アンダーソンにアイ・スリーズはそのままで、新たにタイロン・ダウニーをキーボードに加え、パーカッションにアルヴィン・パターソンを招いた編成です。このメンバーの演奏は多くの人が指摘する通り、かなりロック的です。

 これはこの時代のライヴ録音ゆえにベースの音がまろやかになっているせいでもあるでしょう。それもまたブレイクの要因です。濃密なライヴ空間、突き刺さるメッセージ、ロック的な強烈な演奏が見事に一体化したライヴ・アルバムの金字塔です。

Live! / Bob Marley & The Wailers (1975 Island)