モンスターアイドル、マメシバの大群の待望のデビュー作「スタート」です。「水曜日のダウンタウン」の企画から誕生したアイドル・ユニットです。結成にいたるプロデューサー役をやっていたクロちゃんもアドバイザーの役をもらい、ジャケットに小さく写っています。

 モンスターアイドル企画は大変面白かったです。クロちゃんは大変研究熱心なアイドルおたくとして知られており、マニアックなアイドル・コンピ「楽曲派」のジャケットを飾ったほどです。新たなアイドルを作り上げる企画を主宰する資格はあるわけです。

 ただし、オーディション参加者は企画の性格上年齢が高めでしたし、BiSHやBiSのWACKが全面協力ということでクロちゃんの理想とするアイドルとは少し方向性が異なるのではと思っていたのも事実です。その路線の違いは1月の大変身で決着がつきます。

 メンバーはそれでいいのかとも心配しましたが、オーディション参加者はWACKのオーディション経験者ばかりということなので、クロちゃんのみが半ばはじき出される格好になったのも必然といえば必然でした。ただWACKに新風を吹き込んだ功績は大きいです。

 本作品にはクロちゃんがかかわった曲が3曲収録されています。そのうちシングルとして発表された「りスタート」と「ろけっとすたーと」は作曲もクロちゃんです。注目すべきは彼の特異な言語センスです。普通の人には書けない歌詞です。

 もともとユニット名の豆柴の大群もアイドル事情に詳しくないと出てこないでしょう。その深い知識と、没となったユニット名「七色の紅の扇」を考案したクロちゃんのセンスが歌詞にも滲みだしてきているものと高く評価したいです。♪川の流れユニゾンしすぎて鼻水ちょちょぎれ♪。

 3曲のうちシングル化されていない「ドンクサハッピー」が注目です。WACKのアイドルとしてはとても珍しいジャジーなシティ・ポップ風の楽曲です。他の二曲も衣装も含めてクロちゃんの考える正統派アイドル・ポップで、従来のWACK路線とは少し違う。

 松隈ケンタ率いるスクランブルズが提供しているほかの楽曲にも、ロック風あり、メタル風あり、歌謡曲風あり、ミユキエンジェル曰く「全曲、色が違う。それこそおもちゃ箱です、これは」。WACK対クロちゃんの構図がさらに広がって大変面白い作品になっています。

 WACKらしさは冒頭の自己紹介ソング「豆柴の大群ーお送りするのは人生劇場ー」や、ナオ・オブ・ナオの事件を正面から扱った「FLASH」に顕著です。それにメンバー全員に作詞をやらせたところもそう。ハナエモンスターのみ2曲採用されています。

 リーダーはナオ・オブ・ナオですが、歌の中心になっているのはすでにWAGGで活躍していたハナエモンスターでしょう。大変かっこいいです。それにミユキエンジェルはアユニDのような位置づけで、どすのきいた可愛い声が素敵です。

 番組でもっとも際立ったキャラクターのアイカ・ザ・スパイにカエデフェニックスを加えて、全員の物語が知られているというアイドルとしては最高のスタートを切った豆柴の大群には、WACK対クロちゃんをひきずりながらしたたかに頑張ってほしいものです。

参照:「bounce438(2020/05)」出嶌孝次(タワーレコード)

Start / Mameshiba No Taigun (2020 タワーレコード)