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 「楽曲派」とはアイドル好きの方々の中で、アイドルの歌う楽曲に着目する人たちを指す言葉のようです。コンサートで腕組みをしながら見ている人を地蔵と言うそうですが、ベン図を描くとかなり重複しそうです。

 昔もアイドル・ブームはありましたが、今は数が多い。一つのグループの人数が多いのみならず、グループの数もやたらと多い。しかも、コンピューターのおかげで楽曲制作のハードルが低くなりました。結果として、いい曲も絶対数が多くなっていると思います。

 この作品は、日本のアイドル歌謡をこよなく愛する元メガデスのマーティ・フリードマンが監修したオムニバス・アルバムです。ジャケットにはアイドルのコンサートを年100回以上は見るという安田大サーカスのクロちゃんが飾っています。

 マーティは松浦亜弥のセカンド・アルバムに衝撃を受けて、アイドル歌謡に目覚めたのだそうです。日本の音楽が洋楽とは隔絶された独特の世界を形成していることが楽しくて仕方がない模様です。外国人に日本の魅力を教わるのも癪ですが、なるほどと思います。

 ここには14組のアイドル・グループの楽曲が収録されています。どれも全く知りませんでしたが、いずれも選び抜かれた曲だけあって、ハチャメチャな冒険というよりも、王道をいくポップスとして一定の水準は軽くクリアしており、十分楽しめます。

 しかし、アイドルも幅広い。例えば、つりビットは「釣りというレジャー&スポーツに打ち込むことを誓った少女たち」によるアイドルユニットで、「少女たちはいつの日か世界を釣り上げます!」そうです。

 クリアーズは日本全国お掃除計画を目的とするお掃除ユニットですし、ぱすぽ☆は「ガールズロックで、お客様を忘れられない旅にお連れする」CA風ユニット、さくら学院は「学校生活とクラブ活動をテーマに色々な分野で個性を表現していく『成長期限定!!』ユニットです」。

 アフィリア・サーガは何かと思えばメイド・カフェ「アフィリア・グループ」のキャストから構成されているお店アイドルですし、ひめキュンフルーツ缶は愛媛県のご当地アイドル、ベイビーレイズJAPANはあまちゃんの「暦の上ではディセンバー」を歌ったユニットでした。

 平均年齢27歳「可愛いだけじゃ物足りない。大人の遊び場へようこそ」のプレディアはかなりのセクシー路線ですし、ななのんはニコニコ動画のカリスマとティーン誌の人気モデルからなる不思議な感覚のユニットでした。

 さらにデスラビッツにはアラフォー男の部長さんがユニットに入っており、女性メンバーと抗争を繰り広げています。このユニットの音楽はミクスチャー感覚が素晴らしい。「メタル?ロック?ジャズ?フュージョン?ブルース??違うよ君ぃ~ジャパニーズ・デス・ポップだよ」。

 埋もれたJポップを発掘して歌うアイドルネッサンス他、全部は紹介できませんが、とにかく飽きない。基本はユニゾンで歌い踊るわけですが、フックの利いた楽曲の数々は確かに水準が高い。過去のアイドル像に囚われていてはいけないとしみじみ思った次第です。

Gakkyokuha / Various Artists (2016 クラウン)