「音楽は宇宙を癒す力」。アルバート・アイラーによる言明はCOVID19時代にこそふさわしいです。このアルバムで説法されるスピリチュアルなメッセージは偉大な音楽の力を十二分に思い知らせてくれます。圧倒的な音の洪水です。

 本作は1969年8月26日、27日にニューヨークのスタジオで録音されたアルバート・アイラーのリーダー作品です。翌年11月に34歳にして亡くなってしまったアイラーにとっては、これが最後のスタジオ録音になってしまいました。

 参加ミュージシャンは、ボーカルのマリー・マリア、ベースにはビル・フォルウェルとスタッフォード・ジェームスの二人、ドラムにモハメッド・アリ、ピアノのボビー・フュー、ギターにヘンリー・ヴェスタイン、そしてアルバート・アイラーで計7名によるセッションです。

 この中で異色なのはヘンリー・ヴェスタインです。彼はデビュー前に脱退してしまいましたがマザーズ・オブ・インヴェンションのオリジナル・メンバーであり、その後キャンド・ヒートで活躍したというロック畑のギタリストです。

 またボーカルのマリー・マリア・パークスはアイラーのガールフレンドで、本作品の作詞作曲クレジットをほぼ独り占めしています。彼女のボーカリストらしくない、説法のようなスピリチュアルな語りがアイラーのサックスと絡んでアルバムの芯となっていますから許されますね。

 さて、アイラーです。音楽評論家の間章氏は、「彼の音楽は決して曖昧なものや極度にアブストラクトなものとして人をとらえることはない。」と書いています。確かに下世話ともいえる猥雑な本作のサウンドはとても具体的できっぱりしています。

 ヴェスタインも作曲に名を連ねた「ドラジャリー」などはまるでロックなギターに野太い音のテナー・サックスが絡みついており、一部ジャズ原理主義者の眉を顰めさせてはいるものの、圧倒的に分かりやすいサウンドとなっています。

 「彼の音楽はそれがたとえどのような見かけ上の複雑さや無秩序やカオスであろうとも常にはっきりとした生命力やエネルギーが世界への意思表示として人をとらえるような音楽でいつもあった」。ここにも激しく頷きたいと思います。

 ド迫力のサックスが延々と続くさまは生命力に満ち溢れており、「徹底的にジャズの『伝統的な』形式や話法や方法を否定・解体または無視したが、その事によってジャズの先史的なともいえる『伝統』をより鋭く浮かび上がらせた」ことを考えさせてくれます。

 若い頃にはリトル・バードと呼ばれた名手であったアイラーは、ジャズとの闘いにおいてジャズを破壊しつつも原初に立ち返ってエネルギーを引き出し、スピリチュアルな高みに登りつめたように思います。猥雑なスピリチュアルが彼の身上です。

 アイラーは、この作品ではテナー・サックスの他に、12分に及ぶ「マゾニック・インボーン・パート1」にてバグパイプを吹いています。少しですがオカリナも吹いています。牧歌的なはずのバグパイプが凄いことになっていて感動します。いや凄い作品です。

参照:「アルバート・アイラー論ノート1(『なしくずしの死』への覚書と断片)」間章(月曜社)

Music Is The Healing Force Of The Universe / Albert Ayler (1970 Impulse)