気になるバンド、女王蜂の「BL」です。前作「十」を発表してからわずか9か月という短い間隔で発表された、バンド活動10年目にして7枚目となるアルバムです。女王蜂は精力的な活動を続け、じわじわと人気も獲得してきました。本作もトップ10ヒットとなっています。

 女王蜂はボーカルの薔薇園アヴを中心とする4人組で、音楽に専念してもらえるように各メンバーのプロフィールは未公開です。とはいえ、顔を隠しているわけではなく、むしろビジュアルなイメージも大きな魅力となっています。

 それが証拠に、本作品が発表された三つの形態のうち、完全生産限定盤の「リリー」と「ローズ」は88ページに及ぶ豪華ビジュアルブック仕様になっています。アヴちゃんを中心とするバンドの豪勢なビジュアルが全開です。ただ、私が入手したのは通常盤「BL」です。

 制作にあたって、「全8曲はバンドで総てのアレンジを作り上げたあと、各4曲ずつをふたつのチームに振り分けて完成させ」ています。ふたつのチームがリリーとローズで、ローズの中心は塚田耕司、リリーはなかしまみのりという方です。

 限定盤はそれぞれのチームが手がけた4曲を先に持ってきて全8曲を並べた曲順、「BL」はローズの4曲がリリーの4曲を挟む曲順になっています。また「虻と蜂」は限定盤と通常盤ではバージョンが違います。前者がBバージョン、後者がLバージョンと呼ばれています。

 ローズは「HBD」、「BL」、「CRY」、「PRIDE」の4曲です。「BL」は向井理主演のTVドラマ「10の秘密」の主題歌に起用され、女王蜂の代表曲の一つとなりました。この4曲はアルファベットの題名をもち、クラブ・ミュージック的なテイストが濃厚なトラックです。

 一方、リリーは「傾城大黒舞」、「心中デイト」、「虻と蜂」、「黒幕」のいずれも漢字を使った曲名の4曲です。特に前二曲は2013年頃にできた曲だそうで、女王蜂がかつて「ディスコ歌謡」と呼ばれていたことも納得のトラックです。

 このバンドの魅力はまずアヴちゃんのボーカルにあります。てっきり男と女と二人ボーカルがいるのだと思いましたが、そうではありません。両方ともアヴちゃんでした。高音と低音が使い分けられ、J-POP仕様のエモいボーカルに引き込まれます。

 サウンドはバンドらしい側面もある一方で、軽やかなミクスチャーでヒップホップなりクラブ・ミュージック的でもあります。多分に劇場的なアルバムの作り方とビジュアル・イメージからはグラム・ロックとも言えます。あくまで自由な女王蜂スタイルです。

 セルフ・ライナー付きのブックレットを片手に耳を傾けていると、アルバム全体を覆うしたたかではあるけれども壊れやすいアヴちゃんワールドに涙が出そうになってきます。心の深いところを表現するのがとてつもなく上手い。工夫されたサウンドが珠玉の言葉を引き立てます。

 通常盤では後半にオフ・ボーカル・バージョンが全曲収録されています。これが実に効果的で、演奏の秀逸さを再認識するとともにボーカルがない中でアヴちゃんのボーカルを反芻してクールダウンできます。女王蜂恐るべし。ビリー・アイリッシュと共通する魅力を感じます。

BL / Jououbachi (2020 女王レコード)