キング・ヌーは2019年の紅白歌合戦に初出場し、ヒット曲「白日」を披露しました。私にとってはキング・ヌー初体験でした。耳がぴっとなったのでアルバムを買ってみました。このアルバムは彼らの三枚目のアルバムで、紅白出場からほどなくして発表されました。

 公式サイトを覗くと、「東京藝術大学出身で独自の活動を展開するクリエイター常田大希が2015年にSrv.Vincという名前で活動を開始」したバンドがやがて4人組となり、2017年4月にバンド名をキング・ヌーに改名して新たなスタートをきったことがわかります。

 常田によれば「内容が変化する時には、名前も変える!」のだそうで、キング・ヌーでは「日本の音楽業界と密接にコネクトしたものをやっていく。意思表明じゃないけど、そういう意味を込めて名前を一新してやっていこうって思って変更しました」そうです。

 ヌーは常田が昔から注目していたという動物のヌーのことで、ヌーが仲間を増やすようにファンを増やして大きな群れとなることを目指すとのこと。コンピューターのヌー・プロジェクトのことかと思ったのですが違いました。そちらも似あう気がしますけれども。

 彼らのスタイルは自称「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」です。本作品でも、本人たちの思惑通り、J-POPが勝っているのですが、サウンドはさまざまな音楽スタイルのミックスで出来上がっていることがわかりますから、的確なネーミングです。

 J-POPは彼らの持ち味というよりは、明確な意図をもって身に着けたスタイルです。「J-POPって他の音楽と比べて特殊なので、意識をもちろん変える必要がありました」と常田は言います。そこからミスチルや宇多田ヒカルなどを意識して聴くようになったとも。

 そうした勉強の跡が顕著に見えるのはまずは歌詞です。ブックレットにぎっしり印刷された言葉数の多い歌詞は、まるでAIがJ-POPを学んでひねり出したような言葉遣いです。クリシェに満ちた世界は逆に新鮮な感じがしました。

 演奏はもちろん腕達者ばかりなのでしょう、複雑なサウンドが軽やかに飛び出してきます。歌謡曲仕様なので「メロディー・声っていうものがとても面積を占める」のですけれども、サウンドも大そう面白いです。コンピューターでちょこちょこっと作ったものの対極にあります。

 本作ではサーバ・ヴィンディの頃に発表した「イン・トーキョー」の一部分が「開会式」、「幕間」、「閉会式」に使われています。チェロなどが活躍するインストゥルメンタルで、J-POP以前の彼らのスタイルをよく表しているようです。かなり違いますから。

 メインの収録曲のほとんどはCMやドラマに使われています。サウンドをちょっと聴くだけでインパクトが大きいのでCMやドラマ向きです。中でも代表格は、日テレのドラマの主題歌「白日」で、これは紅白でも披露され、さらにMVも話題になりました。

 圧倒的なJ-POPぶりです。典型的なザ・J-POPぶりは見事なものです。反感を買ってもおかしくない姿勢ですけれども、楽曲の魅力と高い演奏能力でねじ伏せました。「観客含めてライブ会場みんなで大合唱できるもの」というテーマは見事に達成されたと思います。

参照:Fashion Press 常田大希インタビュー 2019-7-5 

Ceremony / King Gnu (2020 Ariola)