グルグルはクラウト・ロックの重要バンドの一つです。いくつかのグループに分ける場合には、ファウストと同じグループで語られることが多い。間章氏の分類では両バンドは「ロック自体の解体、悪意とユーモアによるロックの逸脱」群に属します。

 グルグルとは大変意味深長な名前ですけれども、もともとはグルグル・グルーブであったと知ると途端に光景が一変します。意味深でも何でもない。悪意とユーモアに満ちた名前でありました。グルグルグルーブですよ。ドラえもんの道具のような名前です。

 1970年のデビュー作「UFO」はクラウト・ロック史上に燦然と輝く名作ライブでした。この「ヒンテン」は続く2枚目のアルバムで、メンバーは同じですが、クラウト・ロックの重鎮コニー・プランクがエンジニアに迎えられて、幾分すっきりしたサウンドになりました。

 グルグルは後に中心人物であるドラマーのマニ・ノイマイヤー個人と同一視されていきますが、この作品の頃はベースのウリ・トレプテ、ギターのアックス・ゲンリッヒとノイマイヤーが火花を散らしあうトリオでした。ワンマンなどではありません。

 ノイマイヤーとトレプテはスイスのフリー・ミュージック系ピアニスト、イレーネ・シュヴァイツァーのグループなどで腕を奮ったジャズ畑のミュージシャン、ゲンリッヒはタンジェリン・ドリームのクリストファー・フランケも在籍したロック・バンド、アジテーション・フリー出身です。

 ゲンリッヒは聴けばすぐわかる通り、ジミ・ヘンドリックスに影響を受けたバリバリのロック・ギタリストです。そこにフリー・ジャズを背骨に持つリズム隊が加わり、怒涛の演奏を繰り広げるわけで、しばしばクリームが引き合いに出されました。

 その迫力あるトリオによる「ヒンテン」はサイケデリックなカオス渦巻くサウンドながら、ジャケットのセンスが物語る通り、きわめてシニカルなユーモアに満ちています。アルバム・タイトルを直訳すると「うしろ」、写っているのはマニ・ノイマイヤーの尻です。

 ジャケットのコンセプトは「ジャケットが人物の顔ではつまらないから尻だ!」というものだそうです。各楽曲のタイトルも「エレクトリック・ジャンク」、「ザ・ミーニング・オブ・ミーニング」、「ボ・ディドリー」、「スペース・シップ」とそこはかとなく乾いた笑いを誘います。

 一番おかしいのはもちろん「ボ・ディドリー」でしょう。♪ボ・ディドリー♪と連呼されるこの曲はボ・ディドリー・ビートを意識したかっこいい曲です。高い演奏能力をいかんなく発揮したスリルあふれる演奏は素晴らしいです。

 エレクトロニクスやノイズの使い方も絶妙で、「スペース・シップ」ではそれまでの3曲とはうってかわってエレクトロニクス全開方面のサイケデリックで攻めてきます。ここでも三人のバランスは精妙に保たれており、緊張感が何とも言えません。

 大傑作とされるデビュー盤にまさるとも劣らない傑作です。オーソドックスなロック・トリオによるサイケデリックなサウンドはロックを解体し、ロックから逸脱するものだとの間章氏の見方はよく分かります。一筋縄ではいかないサウンドです。

参照:「なしくずしの共和国」間章(「さらに冬へ旅立つために」)(月曜社)

Hinten / Guru Guru (1971 Ohr)