前作からほぼ1年のインターバルで発表されたスウィートによる1980年代初のアルバムです。どうにかこうにか生き延びてきたというのが正直な感想です。パンクやニュー・ウェーブの荒波にも流されず、独自のポップ路線を貫く姿は天晴です。

 しかし、そんな呑気なことを言っていられるのは音楽を消費する側だからこそで、巨額の契約金で自社に引っ張り込んだポリドールにしてみれば、「愛は命」以来、ヒットらしいヒットを記録していないスウィートにやきもきしていたに違いありません。

 そんなわけでついにレーベル側が介入しました。移籍後はとにかくセルフ・プロデュースを貫いてきたスウィートに一部とは言え、外部プロデューサーをつけました。選ばれたのはピップ・ウィリアムスです。ムーディー・ブルースのプロデュースなどで知られる人です。

 ピップはスウィートの初期のプロデューサー、フィル・ワインマンの下でセッション・ギタリストとして活躍した人で、スウィートの初期のヒット曲でギターを弾いていましたから、スウィートとの縁はとても深いものがあります。何とも見事な人選です。

 本作収録でシングル・カットされた2曲、「ギヴ・ザ・レイディー・サム・リスペクト」と「シクスティーズ・マン」はピップがプロデュースしました。おまけに「シクスティーズ」はピップとピーター・ハッチンスなるミュージシャンが書いた曲です。

 さらに「ギヴ・ザ・レイディー・サム・リスペクト」はツアー・ギタリストであるレイ・マクライナーが書いています。レイは「トゥー・マッチ・トーキング」も作曲していますし、同じくツアー・キーボーディストのゲリー・モバーリーが共作した曲も含まれています。

 スウィートの全部自前主義がヒットが出ないことによってレーベル側に否定されてしまったということだと解釈できます。とはいえ、もともとスウィートの外縁にいた人ばかりですから、そこまでドラスティックな変化というわけではないところに彼らへのリスペクトが感じられます。

 拡大スウィートによって制作されたアルバムはなかなかの力作です。プログレ的な要素はさらに後退し、ストレートなポップ・ロック路線に戻ってきました。特にピップはバブルガム期のスウィートのイメージを念頭にプロデュースしたに違いありません。

 シングル2曲はキャッチーないい曲ですし、3人のコンポジションも気合が入っており、私はとりわけアルバム・タイトル曲が大好きです。力強いロックとポップが融合した作品で、キャッチーなさびの部分などは頭にこびりついて離れません。

 しかし、残念ながらさっぱりヒットしませんでした。ドラムのミックのご家庭に不幸があって、ツアーが全くできなかったという事情はあるにせよ、バンドにとっても、それ以上にレーベルにとっては残念な結果に終わってしまいました。

 アンディ・スコットは特に「シクスティーズ」には自信があったようで、「これ以上の商業性とロックの融合は考えられないが、ヒットになっていないということは、それがスウィートには求められていないということだ」と総括しています。1980年には向かなかったようです。

Waters Edge / Sweet (1980 Polydor)