冒頭の曲でボーカルとパーカッションを聴いた途端に精霊と出会ったかのような感じに囚われます。このアルバムではその気分が最後まで持続します。久しぶりに音楽と接することの意味を再発見させてくれるアルバムです。

 ソウル・ジャズ・レコードは1992年にロンドンで設立され、終始一貫してクロス・ジャンルの作品を発表し続けている素晴らしいレーベルです。本作品はそのソウル・ジャズ・レコードから2020年に発表されたナイジェリアのアパラをコンピレーションしたアルバムです。

 アパラと呼ばれるのはナイジェリアのヨルバ人コミュニティーで生まれた音楽です。ヨルバ人は西アフリカ最大の民族集団で、ナイジェリアではイボ、ハウサと並ぶ三大民族の一つです。ナイジェリアのヨルバは半分がモスリム、半分がキリスト教徒です。

 アパラはヨルバのモスリム・コミュニティーの音楽です。ちなみにナイジェリアのヨルバ人のうち、キリスト教徒コミュニティーに属する有名なミュージシャンには我らがフェラ・クティがいます。アパラはフェラのアフロ・ビートとはまるで異なる音楽です。

 アパラの誕生は1930年代から40年代からのことで、首都ラゴスでは別名で呼ばれていましたが、本作品でも活躍するハルナ・イショラがアパラという名前を採用し、それが普及したそうです。最盛期は1960年代といいますから、それほど古い音楽ではありません。

 ナイジェリアの外ではあまり知られておらず、ソウル・ジャズ・レコードはこのアルバムを国外でリリースされた初めてのアパラ・コレクションだと紹介しています。もともとナイジェリアでもアパラは白人なんかには分からないと言われ、海外発信に熱心ではありませんでした。

 本作品にはアパラ一のスター、ハルナ・イショラのグループを始めとする9グループの18曲が収録されています。そのグループのうち2つは女性ボーカルが率いている点が特筆されます。それぞれのグループは写真を見る限り10人くらいの所帯です。

 アパラを構成する要素は、ポリリズム全開のヨルバのパーカッション、特徴的なアジディボ、すなわち親指ピアノ、そしてイスラム信仰に結びついたボーカルです。この三つが合わさって、サウンド全体が極めて複雑なテクスチャーを帯びています。

 ボーカルはコール・アンド・レスポンスの形をとることが多く、互いに盛り上がって、とても敬虔で恍惚となる雰囲気を醸し出しています。アパラ随一のスター、ハルナの声はとても力強く、正しく抑制しないと聴いた人を殺してしまうと信じられていたほどです。

 すべてがヨルバの言葉で歌われるので、ほとんどの異国人にとっては意味をとることは難しいです。信仰心に熱い哲学的な言葉は白人なんかに分からないのは当然のことでしょう。しかし、魅力の半分が分からないにしても、この熱い音楽の素晴らしさは共有できます。

 音楽スタイルでは親和性の高いワカやパケケも一部収録されており、1960年代のナイジェリアの大衆音楽シーンを知る上で重要な記録となっています。少し後にフェラ・クティが登場するナイジェリアの音楽シーンの豊かさに目がくらみそうです。

Apala : Apala Groups in Nigeria 1967-70 / Various Artists (2020 Soul Jazz)