映画「南太平洋」に代表されるエキゾチックなサウンドを想起させるジャケットです。ワンダー・ツリー・プロジェクトをされているシマダトヨコさんの手になる素敵なジャケットはパスカル・プランティンガのサウンドを素晴らしく言い当てています。

 パスカル・プランティンガはオランダのミュージシャンです。レーベル・サイトによれば、「ベース奏者であるが、基本的なエレクトロニクスは一人で操るマルチプレイヤー」で、「80年代中ごろからヨーロッパを拠点に音楽活動を開始」しています。

 彼は「ドイツのインディー・レーベルAta Takの大ファンだったことから、レーベルを主宰するバンド、デア・プランらとの交流を始め」ており、本作品も同レーベルからの発表で、プロデュースはデア・プランのピロレーターが担当しています。

 本作品は日本のスエザン・スタジオとの共同リリース第二弾です。前作は喜納昌吉とパスカルのコラボレーションでした。ことほど左様にパスカルは「彼自身の出発点であるエレクトロミュージック、ニュー・ウェイブだけでなく、エキゾチカにも造詣が深」い。

 パスカルは2018年には高橋竹山のドキュメンタリー映画「津軽のカマリ」にて音楽を担当するなどしています。さらに沖縄音楽に傾倒してさまざまなアルバムを発表するなど、日本とは浅からぬ因縁を持った人なのでした。しかもディープな日本。

 そのパスカルはエレクトロ・ソングライターとして知られているそうです。そのことはこのアルバムを聴けば納得できます。パスカルはエレクトロニクス・サウンドを駆使しつつも、基本はシンガーソングライター、さらに言えばストーリーテラーなんです。

 本作品では、パスカルはボーカルとベース、そしてオルガンを担当しています。エレクトロニクスは基本的にピロレーターにおまかせです。面白いのは三人の参加ミュージシャンで、彼らは三人とも管楽器を担当しています。ギターやドラムはなしです。

 それもトランペットやサックス、クラリネットなどの他、珍しいところではスーザホンなど、多種多彩な管楽器を使用しています。この管楽器群のとても繊細なサウンドがエキゾチカを際立たせる役割を果たしています。深い深いサウンドです。

 サウンドでもう一つ特筆すべきは「津軽のカマリ」を監督した大西功一が録音した花火のサウンドです。これがアルバムの最後を飾る「スノード・イン・国際通り」にて効果的に使われています。花火ですから爆発です。沖縄にふる雪と花火。とりあわせが絶妙です。

 パスカルの歌は時にレナード・コーエンを思わせる渋い歌声から、エレクトロ処理を施したものまで多彩です。しかし、言葉を聴かせようとする姿勢は一貫しています。分厚いブックレットにはぎっしり歌詞も印刷されています。

 それはパスカルのハートブレイク日誌でもあります。「すべてのハートブレークな男たちに捧げるモダーン・エキゾチカ・サウンドスケープ」は同時代的ともいえず、時間感覚と地理感覚を麻痺させる本物のエキゾチカです。面白いアルバムです。

Blind On Bikini / Pascal Plantinga (2020 Ata Tak)