ヴァニティ・レコードはアルバムとロック・マガジン附録のソノシートを発表してきましたが、やがてポップ路線にも目を配ることとなり、シングル盤の発表を始めました。そしていきなり3枚ものシングルが発売されることになりました。結局これですべてなのですが。

 まずはシンパシー・ナーヴァスの「ポラロイド」です。シンパシー・ナーヴァスは後にヴァニティからアルバムを発表しますが、これが自他ともに認めるデビュー作となります。「東京のアパートのリヴィングで兄弟をボーカルにして録音した」作品です。

 これをロック・マガジンに送ったことから新沼好文の音楽活動が本格的に始まりました。後の新沼の活躍を考えると、感慨深い曲です。やはり若い。どんなアーティストでもデビュー時は初々しいものですが、ましてや宅録ミュージシャンにおいてをや。

 二枚目のマッド・ティー・パーティーと三枚目のパーフェクト・マザーはどちらも東京にあったイーレム・レコード方面からの参加です。どちらもイーレム・レコードで録音なりミックスなりがされています。東京からロック・マガジンに秋波が送られました。

 20%くらいの確信しかありませんけれども、私はシンパシー・ナーヴァスのUCGを目撃した同じイベントでマッド・ティー・パーティーの演奏を目撃したような気がしています。派手な格好のガールズ・トリオの映像が頭の片隅にあるのですが、どなたか覚えていませんか?

 マッド・ティー・パーティーはクレジットはありませんが、きょうレコーズのサイトによれば、「吉祥寺マイナーやイーレムに出入りしていた白石喜代美が率いるガールズ・トリオ」です。テープの逆回転を多用した重めのリズムのダークなポップです。

 バンド名はもちろん「不思議の国のアリス」の「狂いお茶会」です。本人たちは「コミカルタッチな不思議な要素があって、目指しているのは『狂いお茶会』の雰囲気なんですよね」とストレートに語っています。「遊びとか許容する部分から始める」は主にボーカルですかね。

 パーフェクト・マザーはイーレムの主宰者にて、現在は酒屋の社長を務める上田雅寛が率いる大人数のユニットです。この中には後に山崎春美のタコに参加し、いわゆる新人類として名をはせる野々村文宏が在籍していました。

 インダストリアル・エレクトロニック・ミュージックとでも称すればよいのでしょうか、そのサウンドはスロッビング・グリッスルを想起させます。写真には大勢写っており、イーレム集団の全員参加的な作品かもしれません。中には後々活躍する人もいたかもしれませんね。

 彼らの説明によると、パーフェクトはまずいろんなものを一緒に混合すること、マザーは母体です。あわせて、プリミティブなリズムの部分と、機械を構成していって、母性体というものを勝ち取ろうという決意だとのことです。ロック・マガジンらしい発言でした。

 なお、三枚ともジャケット写真はBGMの白石隆之の手になるものです。ヴァニティ・レコードもコミュニティーへの希求がスタッフにはあったのでしょう。しかし、イーレムほどにもファミリー感覚は生じることなく、終結してしまったのは残念なことです。

Polaroid / Sympathy Nervous, Hide And Seek / Mad Tea Party, You'll No So Wit / Perfect Mother (1980 Vanity)