「歴史を創った1枚」です。1989年に発表された「ザ・ストーン・ローゼズ衝撃のデビュー・アルバム」はイギリスのロック・シーンを語る上で欠かすことのできない影響力の大きな作品です。2006年にはNME誌が英国アルバムの史上最高作に選んでいます。

 クラッシュのコピー・バンドで演奏していた、ボーカルのイアン・ブラウンとギターのジョン・スクワイアは1984年にはザ・ストーン・ローゼズを結成します。ドラムのレニはこの頃の加入です。そしてインディーズから2枚のシングルを出しています。

 マンチェスターの人たちらしく、マーチン・ハネットを起用してLPの制作にまで取り掛かっています。このレコーディングは頓挫しましたけれども、彼らにレコーディングの経験を与えました。そして88年にはベースがマニに代わり、デビューの4人組が揃いました。

 本作品は、新興レーベルのシルバートーンと契約した四人が、XTCの一連の作品で有名になったジョン・レッキーをプロデューサーに迎えて制作したデビュー・アルバムです。英国でもチャートでは19位止まりでしたが、結果的に120万枚を売る息の長い作品になりました。

 レッキーは本作をプロデュースするにあたり、できる限りグループがライヴで演奏しているところを録音できるように心がけたと語っています。ライヴ・サウンドということではなく、バンドのキャラクター、すなわち暖かくて解放された感覚を捉えたかったということです。

 「彼らはとても正確な演奏をするわけじゃないことは認めなきゃいけないけど、フィーリングが優れていたんだ」と語るレッキーは、その秘訣を四人のケミストリーに求めます。レニのあつかましさ、ジョンは静かで創造的、マニの献身、イアンのカリスマ。

 レッキーばかりではなく、オアシスのノエル・ギャラガーを含む多くの英国人はこのアルバムをとても愛おしそうに語ります。ローゼズが作り出した、マッドチェスターと呼ばれるダンス&サイケを特徴とするロック・シーンがいかに多くの若者を魅了したのかが分かるというものです。

 しかし、当時の日本では辛口の評価を下す人も多かった。それは1960年代のサイケデリック・サウンド、より具体的に言えばザ・バーズあたりとサウンドが似ていたからです。要するに60年代からロックを聴いている人には新しさに欠ける安易なロックと思われたんです。

 似ているとは言っても、もちろんマニとレニの作り出すビートは60年代のそれとは異なる感覚ですし、具体的にメロディーが似ているわけでもありません。雰囲気が模倣されているということなのですが、本人たちにその意識は全くないでしょう。

 冒頭の「アイ・ウォナ・ビー・アドアード」から締めくくりの「アイ・アム・ザ・レザレクション」まで、熱いんだか冷たいんだかわからないキラキラしたロックが連打されています。この雰囲気は過去のロックの亡霊なのではなくて、レッキーが捕らえた四人のキャラクターなんでしょう。

 昔聴いたあれと似ていると言い出すのは歳をとった証拠です。表面上は似ているところがあったにしても、わずかな差がとんでもなく大きいのがアートです。ストーン・ローゼズのデビュー作はその踏み絵とも言える作品かもしれません。

The Stone Roses / The Stone Roses (1989 Silvertone)