まるでブートレグのようなジャケットです。一見、パンク風ですけれども、クリス・スペディングのポートレートは人生に草臥れた様子が漂っています。この時、クリスはまだ30代後半です。この頃の30代後半は今では考えられないですが、中年に差し掛かっていました。

 前作発表後、クリスはニュー・ウェイブのバンド、ネセサリーズと組んで北米をツアーしてまわりました。プリテンダーズの前座です。「必殺ギター」でコーラスを担当していたクリッシー・ハインドのバンドです。あちらはあっという間に大スターになってしまいました。

 この他にもジョアン・アーマトレイディングのアルバムに参加するなど、変わらずセッション・マンとして引っ張りだこだった様子です。しかし、その傍ら、ソロの方は「2年間というもの、アルバムを作る準備が出来たという気がしなかった」そうです。

 前作でファンにギター・ソロをぶつけてみたものの、結局、シングルもアルバムもヒットせず、そのことがクリスにとっては重荷になっていたのでしょう。意外とクリスはポップ・スターへの憧れが強かった様子です。強面ですけれども。

 いよいよアルバム作りを決意すると、クリスが連絡をとったのがミッキー・モストです。所属レーベルのオーナーですから当然と言えば当然ですが、ついでにプロデュースもミッキーに依頼しています。セルフ・プロデュースの実験が商業的には不発だったからでしょう。

 クリスによれば、ミッキーはいい仕事をしました。ミッキーはクリスが自信を持っていた曲をカットし、選ばれそうにないと考えた曲ばかり選んだのだそうですが、結果的に全曲があるべきところに収まり、自分にとっても最適な解だったことに気づきます。

 カバー曲が3曲選ばれており、そのうちキンクスの「アイム・ノット・ライク・エヴリバディ・エルズ」と、1964年のデイヴ・ベリーのヒット曲「クライング・ゲーム」がシングル・カットされています。「クライング・ゲーム」は後にボーイ・ジョージもカバーしました。

 今回のレコーディング・バンドは、まだ若かったベースの先生ポール・ウェストウッド、フェアポート・コンヴェンションのドラマー、デイヴ・マタックス、ピアノにユーライア・ヒープのフィル・ランゾンが中心です。達者なミュージシャンが集まりました。

 こうした腕利きのミュージシャンを従え、実力派のミッキー・モストによるプロダクションを得て、前作からは考えられないようなまとまったアルバムになりました。プロの技とはこういうことを言うのでしょう。演奏もタイトだし、一本筋金が通ったロック・アルバムです。

 タイトなリズム・セクションの上に展開されるクリスのギターは聴きどころ満載ですし、しばしばへたうまとされるそのぶきぶきの歌声も迫力満点です。曲も短くまとまっていて力作であることは間違いありません。ギミックのない地を這うシンプル・ロックン・ロールです。

 隙だらけの前作の魅力が捨てがたいのですが、本作にはまとまればまとまったなりの魅力があります。とはいえ、どちらもちっとも売れませんでした。実力派ですし、もう少し売れても良かったでしょうに。しかし、クリスはへこたれません。レーベルを移籍して活動は続きます。

I'm Not Like Everybody Else / Chris Spedding (1980 RAK)