今やアメリカの音楽界を代表するアーティスト、テイラー・スウィフトの7枚目のオリジナル・アルバムです。題して「ラヴァー」です。「世界はロマンスで出来ている」と、まあ何ともどストレートなタイトルを冠して発表されました。堂々としています。

 ジェンダーに意識が低い昔であれば、お嫁さんにしたい女性ナンバー1とかなんとか言われてもおかしくないアイドル系だったはずなのに、今や戦うアーティスト・ナンバー1です。しかも、その戦い方が素晴らしくクレバーです。隔世の感を感じる眩しさ。スーパースターです。

 このアルバムに関しても、本人による長文の解説が同報されています。いろいろと誤解されやすい人だけに、自分の思いを歌だけではなく文章で綴ってさまざまなつまらない憶測から、ファンを守るという試みなのでしょう。丁寧です。

 それによれば、「このアルバムは、愛そのものに宛てたラヴ・レターです」。「魅惑的な、魔法のような、気が変になりそうな、打ちのめされそうな、赤や青、灰色や金色の、愛のありとあらゆる側面について取り上げたアルバムなのです」ということです。

 そのため、「単に全てがラヴ・ソングな訳じゃないの。だって、ロマンティックだからといって、必ずしもハッピーなものじゃなくてもいいと思うし、孤独や悲しみ、争いごとを経験したり、人生の葛藤に苦しむことにもロマンスを見出すことができるわ」。

 彼女のアルバムはこれまでも愛について歌っていますし、多くの人にとってと同じくテイラーにとって愛は終生のテーマでもあるのでしょう。結局、何を歌っても愛の歌になるという宿命のもとに生まれてきたということに自覚的になったということでしょう。

 ということで彼女のアルバムは歌詞に注目が集まることが多いです。ソロ・アーティスト、特に女性の場合はサウンド面をプロデューサーに任せているのではないかと疑われがちですからなおさらです。しかし、彼女の場合はそうでもなさそうです。

 本作ではボートラでボイス・メモなるものが同報されており、タイトル曲「ラヴァー」の制作メモが聴かれます。「夜遅くにさっと書いた曲なんだけど、書いた瞬間にこのアルバムのタイトルにしたいと思った」曲を、テイラーはプロデューサーのジャック・アントノフに披露しています。

 テイラーはこの曲に適切だと思ったジャックを呼んで、あれこれと曲について解説しながら、完成版とはまるで違う太めの声でピアノを弾き語りしています。ジャックは基本的に「いいね」しか言っていません。これを聴く限り、完全にテイラーが思い通りに進めています。

 出来上がった曲はスモーキーでレトロなイメージのロマンティックなラヴ・ソングで、狙い通りその雰囲気がアルバム全体を覆っています。活気あふれる曲「ME!」やユーモラスな「ロンドン・ボーイ」を始め、さまざまなスタイルの曲があっても、とにかく「ラヴァー」です。

 さすがは現代ナンバー1の歌姫だけあって、そのサウンドも含めてアメリカン・ポップスの現在系が堪能できます。大きな冒険があるわけでもありませんし、カントリー回帰が目立つわけでもない。堂々とわが道を進むテイラーの現在を最高のかたちで表現したアルバムです。さすが。

Lover / Taylor Swift (2019 Republic)