エマーソン、レイク&パーマー、EL&Pの出世作です。制作時期からいえば次作の「展覧会の絵」の方が先ですけれども、発売はこちらのスタジオ作「タルカス」が先でした。見事に全英1位を獲得し、米国でもトップ10入りする大ヒットを記録しています。

 日本のオリコン・チャートではさほど目立った成績を残していないのですが、洋楽ファンの間ではEL&Pの人気は本作をきっかけに大いに盛り上がりました。三人ともにテクニシャンですから、洋楽ファンはみんな一目置いておりました。懐かしい。

 さて、本作はA面が「タルカス」と題された組曲になっています。「タルカス」とは、「すべてを破壊し尽くす架空の怪物の名前」です。タルカスはジャケットに描かれているようにアルマジロと戦車が合体するという意表をついた姿の怪物です。

 見開きジャケットを開くと、噴火で誕生したタルカスが、アジアの森林にすむ伝説の生物マンティコアと戦い、最後は水に帰っていくストーリーが描かれています。ちなみにマンティコアはサソリの尾を持つライオンのような生き物で、後に彼らのレーベル名となります。

 20分に及ぶ組曲は物語に応じて7つのパートに分かれており、最初の「噴火」から最後の「アクアタルカス」までそれぞれタイトルが付けられています。壮大な叙事詩を音楽で表現していくという実にプログレッシブ・ロック的な作品だと言えます。

 しかし、そもそもジャケットは完成した音を聴いた彼らの友人イラストレーターがイメージして描かれたものです。それにグレッグ・レイクの書いた歌詞は物語とは直接関係しているようにはとても思えません。「タルカス」も「マンティコア」も出てこないですし。

 要するに後付けの物語です。B面の小曲6曲の方もやろうと思えば物語に組み入れることは可能だったでしょう。どこまで真面目なのか、EL&Pのプログレ精神は他の難しいバンドとは幾分違うところにあります。彼らの場合はとてもスポーティーです。

 物語は後付けだとしても、サウンドはまとまっています。これぞキース・エマーソンというオルガンとピアノ、そして何よりムーグ・シンセサイザーが高速でビュンビュン舞っています。全体に大阪弁でいういらちな感覚で、攻撃的なサウンドが連打されていきます。

 この頃はまだシンセの黎明期です。キースのようにずっと前から慣れ親しんできたかのようにして演奏に取り入れた人は極めて珍しく、シンセはキースの代名詞となっていきました。それも、休む間もなく鍵盤と格闘する戦士というイメージです。

 EL&Pはキースの攻撃的なキーボードとグレッグ・レイクの抒情的なボーカル、そしてグレッグとカール・パーマーの鋭角に切れ込んでいくリズムが持ち味です。バッハの「トッカータ」をさりげなく使ったりする感覚も含めて、そのサウンドはすでにここで完成を見ています。

 最後は「アー・ユー・レディー、エディー」でエンジニアのエディ・オフォードをおちょくったようなロックン・ロールで締めます。ラグタイムも含めて多彩なサウンドを繰り出すエンターテイナーぶりも眩しいEL&Pの傑作です。

Tarkus / Emerson, Lake & Palmer (1971 Island)