YMOは「浮気なぼくら」を発表した際、テレビでお手軽に演奏することを考えて、カラオケを作っていました。チャート番組に出演するつもりなのですから、多くの機材を抱えてバンド・スタイルで演奏することなど現実的ではありません。カラオケが最適のソリューションです。

 カラオケと言っても、1983年当時はまだカラオケ・ボックスが登場していませんから、今のようにカラオケが身近にあったわけではありません。YMOのカラオケも一般に歌われることを想定しているわけではなく、あくまでチャート番組用です。

 本作はそのカラオケ、要するにボーカル・パートを抜いたインストゥルメンタル版に曲順などに手を加えて再構成したものです。題して「浮気なぼくらインストゥルメンタル」です。こんなアルバムを発表してしまえるのも当時YMO以外では考えられないことでした。

 具体的には、ボーカル・パートに坂本龍一がシンセサイザーで歌メロをダビングしています。もちろんそれだけだと違和感が生じる部分が必ず出てきますから、適宜、演奏部分にも手を加えているようです。楽しい作業だったことでしょう。

 そして、歌入り盤との最大の違いは「君に、胸キュン。」が収録されておらず、代わりにシングルでB面曲とされていた「ケイオス・パニック」が置かれたことでした。もう一つは、歌入り盤では「予告編」とされていた「以心電信」のフル・バージョンが収められていることです。

 この「以心電信」は国連の世界コミュニケーション年のテーマソングとしてNHKとのタイアップとのもとで録音された曲で、YMOの三人が揃ってレコーディングを行ったYMOの代表曲の一つです。実にYMOらしい曲で、細野晴臣のベースがカッコいいです。

 本作品では三人揃ってのレコーディングはこの曲のみとなっています。その他の曲はいずれも3人のうちの二人という組み合わせで録音されたのだそうです。唯一ゲストで参加したビル・ネルソンもこのことを不可解に思っていたということです。

 そうです。ゲスト・ミュージシャンはビ・バップ・デラックスのビル・ネルソンのみなんです。ネルソンはギターと特殊な持続音を出すE-Bowを駆使して本作に参加しており、大そう楽しかったと回顧しています。この渋い取り合わせはなんなんでしょう。カッコいいです。

 この頃には、メンバーそれぞれのソロ・アルバムも出揃っていました。それを頭に置きながら、作者の名前を眺めて各楽曲を聴いていくと、しみじみと面白いです。細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一それぞれの単独名義が2曲ずつ、残りはうち二人の共作です。

 「君に、胸キュン。」が収録されておらず、他の曲からもボーカル・パートがないことによって、こちらの方が普通にYMOっぽいです。明るめのサウンドながら、随所に実験的な部分もあって、音楽の方向性が大きく変わったわけではないことがよく分かります。

 しかしながら、アルバム自体は3万枚しか売れなかったそうです。歌入り盤の10分の1以下です。こちらを先に発表していたら、企画盤ではない普通のYMOのアルバムとして人気を博したのではないかと思います。私はこのアルバムの方が好きです。

Naughty Boys Instrumental / YMO (1983 Alfa)