ダブという音楽ジャンルは大変分かりにくいです。要するにスタジオで加工する音楽なわけですが、レコードにする以上、ライヴ盤であろうともスタジオ・ワークが発生するわけで、所詮は程度の問題です。境い目が曖昧なので自信をもってこれがダブですと言いづらい。

 しかし、この作品ほど振り切れていれば、これはダブです、と私でも胸を張って言えます。エイドリアン・シャーウッドの評判を高めることになった、On-Uサウンド前夜の快作です。題して「スターシップ・アフリカ」、金環日食をモチーフにしたジャケットが夜明けっぽくていいです。

 エイドリアン自身の解説によれば、この作品は彼の処女作ともなる、同じくクリエイション・レベルの「ダブ・フロム・クリエイション」と同時期に録音されています。というよりも、「ダブ・フロム・クリエイション」のリズムをレコーディングし直したものがこの作品になっていきます。

 この時に呼ばれたのがミスティー・イン・ルーツというバンドのベース、トニー・ヘンリーでした。そしてドラムの音に納得がいかないということで、プリンス・ファー・アイの紹介により、ジャマイカのルーツ・ラディクスからスタイル・スコットをドラムに呼びます。

 ドラムのオーバーダブというのはいかにもとても難しそうな話ですけれども、スコットは「ほとんどを1テイクで終わらせてしまった」そうです。以降、長らく続く、エイドリアンとスコットの関わりの始まりとしては、最高のものだったと思います。

 そこからがエイドリアンの本領発揮です。サウンドは素晴らしかったけれども、「演奏の間のとり方やタイミングがパーフェクトではなかった」と感じたエイドリアンは、人によっては暴挙と捉える可能性も高い、大胆な処理を施します。

 「2インチのマルチ・トラック・テープを使い曲を逆回転することにした。さらにリヴァーヴとディレイをランダムに加え、正規回転の再生用の1/4インチ・テープを用いた」のだそうです。技術的なことはよく分かりませんが、普通じゃないことはよく分かります。

 こうして出来上がった作品は、極めて先鋭的だと感じた同時期の「ダブ・フロム・クリエイション」に比べても、さらに先鋭的なサウンドになりました。「これがダブや」と言われば納得するほかありません。ステージで再現することを端から求めないエフェクト満載です。

 このサウンドに対し、デイヴィッド・ロディガンというDJだけはエイドリアンに対して、「お前はレゲエになんてことしやがったんだ!?」と怒ったそうです。ここは怒るのが正解でしょう。レゲエの信奉者であればあるほど、まずは怒らないと。

 怒った後で、じわじわとその価値を発見していく、そういう道筋が一番正しいです。それほどに時代を画すサウンドということです。気付いたあとは、視界がぱーっと広がります。スタジオ機材が大いに進歩したからこそできる新しいサウンドは無限の可能性を秘めていました。

 CDでは各楽曲は「スペース・ムーヴメント」のセクション1から9まで機械的に番号が振られています。これがダブらしくていいです。曲の喚起するイメージよりも、サウンド中心に題名を考えましたということでしょう。余計な抒情を抜きにした、サウンド至上主義。カッコいいです。

Starship Africa / Creation Rebel (1980 4D Rhythm)