フランス・ギャルという名前は知らなくても、「夢見るシャンソン人形」を知らない50代はいないのではないでしょうか。私も正直に申し上げると外国の歌だろうということは知っていましたけれども、もっぱら弘田三枝子のバージョンを聴いていました。

 「夢見るシャンソン人形」は1965年の第10回ユーロビジョン・ソング・コンテストでグランプリを獲得してフランス・ギャルの名を世界に轟かせました。なぜかフランス代表ではなく、ルクセンブルグ代表としての参加だったというのも面白いです。

 本作品はフランス・ギャルのセカンド・アルバムで、「夢見るシャンソン人形」がグランプリを獲得した直後に発表されたものです。ジャケット裏にはしっかりそのことが書かれています。これでもかこれでもかと乗っかっていますが、この曲は随分な冒険だった模様です。

 作詞作曲はフランスの顔役セルジュ・ゲンスブールです。サエキけんぞう氏は丁寧なライナーで、このサウンドが「当時米国を席巻していたフィル・スペクター・サウンド、黒人女性3人組のロネッツの『ビー・マイ・ベイビー』のサウンドに似てませんか」と指摘されています。

 確かに言われてみればその通り。こうして最新の米国ポップスのビートを取り入れて大ヒットに結び付けたわけです。自分は人形に過ぎないという皮肉な歌詞、ギャルの意外と太い声の投げやり気味な歌唱を乗せて最高の仕上がりです。

 なお、手元の紙ジャケ再発盤には本人が歌う日本語バージョンも収められています。発音がいかにもフランス人で何ともいえない味わいがあってこちらも捨てがたいです。それに岩谷時子のオリジナルの意味を最大限にいかした訳詞も見事です。本当にいい曲です。

 日本語バージョンもあわせて日本でも60万枚を売るという特大ヒットです。サエキさんの指摘でおおっと思ったのは、この曲の直前のヒットがストーンズの「サティスファクション」、直後のヒットがビートルズの「イエスタデイ」だという点です。いずれ劣らぬ名曲です。

 アルバムには他にも先行するシングル「娘たちにかまわないで」や「シャルマーニュ大王」を筆頭に、ギャルの魅力が光る曲が詰まっています。ギャルの父親ロベールが作詞した曲が多く含まれており、父からまだ17歳の娘への愛情が感じられる点もポイントが高いです。

 気になったのは「ジャズる心」です。何という邦題かと思いましたが、これが何とも曲にぴったりです。しっかりジャズです。この曲を歌いこなす17歳も凄いです。この邦題を思いついた時は嬉しかったでしょうね。本当に小粋な曲です。

 この作品はイエイエと呼ばれるスタイルを中心としたフレンチ・ポップに分類されますが、これが日本の歌謡界に与えた影響は極めて大きいんだなあということを感じさせられます。ゲンズブールの片腕編曲家アラン・ゴラゲールの編曲は見事に歌謡曲的です。

 フランス・ギャルの歌声には可愛いバージョンと力強いバージョンの二通りがあり、後者に私は菅野美穂さんを思い浮かべました。声も似ているのですが、メロディーに対して堅めの歌い方が、菅野美穂さんが歌ったらこんな感じじゃないかなあと思わせます。

Poupée de Dire, Poupée de Son / France Gall (1965 Phillips)