スライ&ザ・ファミリー・ストーンの5作目にして最大の問題作「暴動」です。私は彼らのアルバムの中で最初に「暴動」を聴いたものですから、このバンドがファミリーと名乗っていることが何かの皮肉か何かかなと思っておりました。前作を聴いて納得しましたが。

 前作から2年半ぶりの作品です。その間、スライ・ストーンは大量のドラッグによって私生活のたがは完全に緩んでおり、コンサートはすっぽかすし、レコーディングもまるで進まない、あげくにバンドはバラバラになってしまっていました。ストーンなんて名にしたからでしょうか。

 それでもその間に全米1位となった傑作シングル「サンキュー」を発表するなど、その音楽は生き続けていました。そして、ビヴァリーヒルズに自宅兼スタジオを構えて、そこでゆっくりと創作活動を行っていきます。色んなミュージシャンが出入りしますが、性格としては宅録です。

 その結果完成したのが「暴動」です。ほとんどスライ一人で演奏して作り上げたそうで、メンバー名のクレジットもありません。参加が確実だと言い切れるのはリズム・キングなるドラム・マシーンと、妹ロージ―のボーカルくらいでしょう。

 ボビー・ウォーマックやアイク・ターナー、ビリー・プレストンも参加しているかもしれません。一方、ハービー・ハンコックやスライの大ファンを公言していたマイルス・デイヴィスは様子を見に来ていただけの模様です。バンド・メンバーはあまり演奏が使われなかったようです。

 そんな出自のアルバムは、「スライの精神と肉体が恐ろしい程迄に露出され」たものになりました。ボコボコと地鳴りがするようなどす黒いリズムが生々しすぎる恐ろしい作品です。不気味なドラム・マシーンと、明らかにラリー・グレアムではない不思議なべたっとしたベース。

 全米1位となったシングル「ファミリー・アフェアー」などロージーのボーカルも含めて沈み込んでいくようなサウンドがとても新鮮です。この曲も含めて、ロック的ではありますけれども、前作に比べるとそのニュアンスは随分異なります。

 それでも当時の帯には「そのオリジナリティーの突出はアメリカのロック界を震撼させた」と書かれており、「72年初頭、ロック・ファンはこれを聞かずして今年のロック界を展望することは出来まい」とあくまでロックの文脈で捉えられているのが面白いです。

 要するに当時このアルバムのサウンドがいかに新しかったかということでしょう。本作を「ジャズ史上に於けるマイルス・デイビスのビッチェズ・ブリューに対比されうる」と指摘していることも同じことを語っているのではないかと思います。

 アルバム・タイトル曲は無音の0秒トラックです。暴動は起こってほしくないと祈りをこめての0秒です。スライのメッセージは直截です。また大ヒット曲「サンキュー」は不気味にテンポを落として「サンキュー・フォー・トーキン・トゥ・ミー、アフリカ」と題して収録です。

 そんな小ネタを挟みつつ、当時の音楽評論家の当惑をよそにアルバムは堂々全米1位を獲得しています。よくもまあこんな問題作が1位となったものだと感心します。後にプリンスで同じことを思うようになるのですから、やはりこのラインは最強です。

There's A Riot Goin' On / Sly and the Family Stone (1971 Epic)