今回も前作からわずか半年です。この頃の松田聖子の勢いは本当に凄かったです。出すシングルはすべて大ヒットして、いよいよ松田聖子は山口百恵の後を継ぐスーパーアイドルではないかという意見が大きくなってきた頃ではなかったでしょうか。

 「扉をあけたら もうひとりの私・・・聖子」のキャッチフレーズとともに発表された「シルエット」です。本作品はオリコン1位こそ逃しましたけれども、ちゃんと2位までチャートを上昇しています。アルバムも売れるアイドルの称号にまことに相応しい。

 本作品に収録された先行シングルは「チェリーブラッサム」と「夏の扉」です。この二作ともに作詞は以前同様に三浦徳子が担当していますけれども、作曲は財津和夫に代わりました。財津はフォーク・グループ、チューリップの中心人物として活躍した人です。

 この時、財津和夫はまだ33歳です。まるで若いのですけれども、ほぼ10年前にチューリップでデビューしており、その直後に「心の旅」の大ヒットで一躍スターになっていましたから、大ベテランという感じがしていました。あの頃30過ぎはおじさんだったんです。

 平尾昌晃に続いて今度は財津和夫、攻めてきたのか置きにきたのか分かりにくい人選でしたけれども、財津は意外にもアイドル歌謡らしい曲作りに長けていて、この2曲のヒットを契機にさまざまなアイドルに曲を提供するようになります。ちょっと意外に思いました。

 アルバムにはデビュー時から曲を提供している小田裕一郎が5曲、財津和夫が5曲とちょうど半々の割合で書いています。作詞は大半が三浦徳子ですが、財津自身も2曲書いており、さらにここで松本隆が初めて登場しました。松本担当は1曲のみです。

 前作に比べると、ストリングスも控えめですし、あまりホーン陣が参加していない、ロック・バンド仕様になっています。これまでもその傾向はありましたけれども、本作でもギュイーンとギター・ソロが炸裂したり、演奏陣にも聴きどころが多いです。「花びら」のアウトロとか。

 ギターには元パンタ&ハルの今剛や、長渕剛が頭が上がらないと言っているという矢島賢、西城秀樹のサポートをやっていた芳野藤丸や元はっぴいえんどの鈴木茂など、一癖も二癖もある連中が参加しています。大変丁寧なプロダクションだと言えます。

 前作が秋から冬だったのに対し、本作品は春の発売ということもあり、春から夏にかけての雰囲気になりました。ただし、海の香りはあまりしません。ラテン・フレイバーが薄いこともあるでしょうし、ストレートな歌謡ロック中心だからでしょう。

 松田聖子のボーカルは本当に堂々としてきました。もちろんまだ若いわけですが、デビュー作の頃に比べると安定の歌唱で伸びやかな高音を聴かせます。わずかにフラットするところが魅力だと当時言われていましたが、そんなところにも秘密があるのでしょうか。

 松田聖子は同世代で歌が上手かった河合奈保子などに比べると、あくが強い感じもしました。そこが強靭な魅力を形作っていて、不思議な聖子ワールドにどんどん引き込まれていきます。ロック的ではありますが、王道歌謡路線に近づいた過渡期的な作品だと思います。

Silhouette / Seiko Matsuda (1981 ソニー)