「天使はロマンチック・ソプラノ。つかさ14才の世界」をキャッチフレーズに、徳間に吸収合併されたジャパン・レコードから、伊藤つかさのファースト・アルバムは発表されました。1967年生まれですから、この当時、確かに14歳でした。

 彼女は小さい頃から子役として活躍していましたが、そのブレイクのきっかけはご多聞に漏れず「3年B組金八先生」でした。あの番組で実年齢が中学三年生に満たなかったのは彼女くらいのもんじゃないでしょうか。しかも見た目も小学生のようでもありました。

 伊藤つかさの場合、同じ14歳でもSKE48の松井珠理奈のような大人びた感じは全くなくて、まるで子どもでした。どちらかといえば子役タレントの部類に入る妹キャラで、水着姿なども幼児体形そのものでした。今のアイドルとはまるで異なる14歳です。

 このアルバムはジャパン・レコードから発表されたことがまず驚きでした。ジャパンは徳間音工に吸収されたとは言え、それまで英国のラフ・トレード作品や、日本でも町田町蔵のINUなどを発表していたパンク系レーベルで、そこが歌謡曲、しかも伊藤つかさ、という驚きです。

 さらに本作品のプロデュースを手がけているのは、ジャパン・レコードの創始者であり、さかのぼれば先鋭的フォークのベルウッド・レコードの創設者としてシーンを引っ張ってきた三浦光紀ではありませんか。これは単なるアイドルのアルバムに終わるはずがありません。

 作曲陣には、南こうせつ、水越けいこ、NSPの天野滋、加藤和彦、元ブルーコメッツの井上大輔などアーティストとしても活躍する一流どころが集められました。アイドル歌手にアーティストが曲を提供することが当時ようやく普通になってきた頃です。

 デビュー曲は衝撃的でした。南こうせつ作曲、浅野裕子作詞、船山基紀編曲による「少女人形」です。藤井陽一氏がライナーで表現する通り、「等身大の彼女を『人形』に例えて表現した技ありの箱庭歌謡」です。キャッチーな柔らかいメロディーの名曲です。

 南こうせつは言わずもがなのかぐや姫ですし、浅野裕子は後に小説家、エッセイストとして活躍される方です。このコンビは本アルバムには「童話色(めるへんいろ)」も提供しています。浅野は当時29歳、伊藤つかさになりきってメルヘンしています。

 伊藤つかさの歌唱は「陽だまりソプラノボイスが放課後に響く」という通りではありますが、もっと直截に言えばまるで子どもです。曲の提供を頼まれた水越けいこなどもどうしていいやら分からなかったのではないでしょうか。これでは真剣に対応するしかありません。

 つかさちゃんは自作詩「かすみ草」を朗読したかと思えば、「マリオネット」では作詞もしています。歌詞カードにはメルヘンなイラストまで描いていて、これらすべてが何とも臆面もなく子どもっぽい。やはりプロデューサーの三浦始め、スタッフ全員適当に流すなんて不可能です。

 というような事情で、当時も今もアイドルとしては極めて特異な人です。聴いている方もどきどきはらはらしながら聴くしかない。はらはら感は今も変わりませんでした。何とも不思議なアルバムです。それがオリコン初登場一位、最年少記録を更新する大ヒット。面白いです。

Tsukasa / Tsukasa Itoh (1981 Japan)