ポール・サイモンはよほど映画に出たかったのでしょう。「卒業」ではせっかく書いた曲がほとんど使われず、相棒のアートは映画に引っ張りだこだったという事情からすれば、いつか映画にけりをつけたいと思ったとしても無理はありません。

 名作とされた「時の流れに」から、5年。ポールは自身が脚本を書き、主演もした映画「ワン・トリック・ポニー」を完成させます。残念ながら映画はヒットしたとは言えず、日本では公開もされなかったそうです。そういえば記憶にありません。スーパースターなのに。

 本作品はその映画のサウンドトラックです。とはいえ、映画とはバージョンも違うようですし、サントラ特有のオーケストラによるインストゥルメンタルなどは一切ありませんから、普通にポールの新作アルバムと捉えてよい作品です。

 プロデューサーは前作同様フィル・ラモーンとポールが共同で務めています。バックを固める演奏陣もあまり前作と変わりません。同じような顔ぶれで制作されたわけですけれども、二つのアルバムから受ける印象は随分と異なります。

 本作に収録された曲は随分素直です。もちろんしっかりとアレンジされて完成させられているのですけれども、これまでに比べると捻りが少ない。その分、各楽曲はいずれもある程度雰囲気が似通っています。その意味ではまとまったアルバムです。

 以前のポールならば、あと一ひねり加えて3部構成にするとか、ウルバンバを連れてくるとか、ゴスペルにするとか、S&Gを再結成するとか、いろいろとあったでしょう。しかし、ここでは、アコースティックではないものの「ポール・サイモン・ソングブック」を思い出しました。

 映画にはポール演じるジョナのバンドが登場します。そのメンバーはギターのエリック・ゲイル、ベースのトニー・レヴィン、ピアノがリチャード・ティー、ドラムにスティーヴ・ガッド。この頃の米国音楽シーンに欠かせない超一流セッション・ミュージシャンばかりです。

 このバンドが本作品の楽曲を演奏しています。ここにポールのギターとボーカルが乗るという寸法です。2曲はライヴ演奏が収録されており、そのメンバーも基本的に彼らです。売れなくなったフォーク歌手がバンドを始めるという映画に相応しく、バンド感が強いです。

 本作の中では、冒頭の「追憶の夜」の人気が高いです。この曲はサルサを取り入れていて、アルバム中では唯一軽くワールド・ミュージックを感じます。軽快で気持ちの良い楽曲で、アルバムへの期待を否応なく高めています。

 その後も楽曲は粒ぞろいで、達者なアーティストたちとバンドを組んで演奏に臨んでいるわけですから、悪いわけがありません。深みのある演奏は素敵です。ただし、さらに捻るのがポール・サイモン流だと思ってしまうと物足りなく感じる向きもあることでしょう。

 私にはこの達者な演奏が何とも言えず心地好いです。エゴを映画にぶつけたおかげで、音楽の方は少し肩の力を抜いてリラックスしながら作ったのではないでしょうか。しかし、残念ながら米国でもトップ10入りを逃してしまいました。とことん映画と相性が悪い人です。

One Trick Pony / Paul Simon (1980 Warner Brothers)