フランク・ザッパとマザーズ・オブ・インヴェンションは1971年10月11日にニューヨークのカーネギー・ホールにてコンサートを行いました。このアルバムはそのコンサートを丸ごと収めた記録です。貴重な記録ゆえにヴォールターナティヴの基準に合致しました。

 そもそも1891年にオープンして以来、ニューヨークで最も有名なコンサート会場にして音楽の殿堂であるカーネギー・ホールで、なぜにザッパ先生が演奏することが出来たのか。チャイコフスキーやラフマニノフも演奏したというこの会場で。

 ポピュラー音楽でもビートルズやローリング・ストーンズ、シカゴなどのビッグネームにのみ許された由緒ある場所に登壇するにあたっては、マネジメントを引き受けていたロン・デルスナーによるホールのブッキング・マネージャーへの必死の説得がありました。

 曰く、「フランシス・ザッパは成功したクラシック音楽家である」!騙したということですけれども、説得される方もされる方です。ともあれ、こうした事情を背景に、ザッパ先生とマザーズのたった1日のライヴが開催されました。それも2回公演です。

 1回目は7時半からで、オープニング・アクトにはザッパ先生が世に送り出したブルックリン出身のアカペラ・グループ、パースエイジョンズが起用されました。このCDにはその公演の模様も収録されています。暖かい観衆の反応に感激した皆さんでした。

 約30分の前座公演の後、いよいよマザーズの登場です。この時のラインナップは、いわゆるタートル・マザーズ、マーク・ヴォルマンとハワード・ケイランのフロー&エディが含まれています。二人のボーカルの掛け合いが楽しいタートル・マザーズです。

 リズム・セクションはエインズレー・ダンバーのドラムとジム・ポンズのベース、上物はイアン・アンダーウッドとドン・プレストンのキーボード二人、ギターはザッパ先生オンリーで、演奏陣はわずかに5人のみです。「ジャスト・アナザー・バンド・フロム・LA」バンドですね。

 面白いことに2回公演ながら、曲はまるでダブっていません。1回目のライヴの目玉は意外にも「キング・コング」、11時開始の2回目は、このバンドですから当然「ビリー・ザ・マウンテン」です。両方とも30分を優に超える快演です。

 それに、後の名曲「ソファ#1」や「スティック・イット・アウト」、さらには「コール・エニー・ベジタブル」や「キング・コング」などの名曲がタートル・マザーズで聴けるのはとても嬉しいです。また、「フー・アー・ザ・ブレイン・ポリス」はまるで別の曲になっています。これは貴重。

 タートル・マザーズはボーカルの妙が聴きどころですけれども、ネイティブでないとホールの観衆のようには楽しめない語りから一転してインストゥルメンタルに移行するとその素晴らしさに鳥肌がたちます。特に「ビリー・ザ・マウンテン」でのイアンとドンのソロ・パート。

 4枚組4時間、最後は「これ以上続けるなら600ドル払え」というホールの組合員の要求に応えたザッパ先生がアンコールで「マッド・シャーク」を捧げて終わるという皮肉っぷり。最高の録音状態というわけではありませんが、気合の入った貴重なライヴは楽しいです。

Carnegie Hall / Frank Zappa & The Mothers Of Invention (2011 Vaulternative)