私立恵比寿中学はデビュー10周年を迎えました。早いものです。まだ若いですから、10年前と言えば、最年長の真山りかでも13歳です。小中学生ばかりで結成されたわけです。この10年は大人の10年とはわけが違う密度の濃い10年です。

 結成当時は、「キレのないダンスと不安定な歌唱力」がキャッチフレーズだったことが嘘のように、今やその歌唱力を評価されるグループになりました。確かにライヴ映像を見ると、初期の頃に比べると格段に歌が上手くなっていることが分かります。

 歌唱力という意味では、一番プロっぽかったぁぃぁぃは2018年1月に卒業しており、ここでのエビ中は6人体制になっています。そうなると、くせの強い声は中山莉子だけになってしまい、凸凹感がずいぶん減少しました。本格的アイドル仕様がさらに進みます。

 前作「エビクラシー」は鬼気迫るアルバムでした。その後を受けた本作は、大胆にも「ミュージック」を宣言しています。全12曲、全部作者が異なる曲で、編曲者ですら野村陽一郎が1曲半係わっているのみで、これまた全部違います。

 さらに今回はバーチャルYouTuberの東雲めぐ、そして梅と桜の関係にあるももいろクローバーZがフィーチャリング・アーティストとして参加するという派手な展開です。本格的な令和のアイドルとしてひたすら前に歩くエビ中という意気込みが伝わってきます。

 アルバムは岡崎体育の「ファミリー・コンプレックス」で始まり、宮藤官九郎と結成35年を迎えるパンクバンド、ニューロティカによる「元気しかない!」で終わります。この2曲がエビ中らしいギミック満載の漫才歌謡となっていて、私たちをほっとさせてくれます。

 本格派アイドル路線もいいのですが、やはりこうしたエビ中らしい展開があると落ち着いてアルバムに向かえますし、後味も爽やかです。何たってエビ中ははっちゃけたアイドルで居続けてほしいわけですから。また、このコントが上手い。

 シングル曲「でかどんどん」は海外での活動も多いユーリックスこと村田有希生による楽曲で、山本リンダもしくは和田アキ子を思い出すソウルフルな歌です。ライヴではアッコさんばりの♪はっ!♪が入りますが、ここではへなっとした♪いえぇぇ♪がいいです。

 現役高校生メガ・シンノスケの人生5曲目という「踊るロクデナシ」は、ポスト・パンク風なのが面白いですし、吉澤嘉代子の「曇天」は落ち着いたテンポの新境地、ももクロへの楽曲提供もしているインビジブル・マナーズの「星の数え方」は超王道アイドル歌謡です。

 そのももクロと一緒に歌うのがお馴染みたむらぱんの「カラー」、若い人に話題のミセス・グリーン・アップルの大森元貴が書いた「シンガロン・シンガソン」。すべての楽曲に何か一つ引っ掛かるものがあるというのは凄いことです。

 実に丁寧に制作されています。「金八」の頃のエビ中ともちろん地続きですけれども、やはり大人になりました。しかも、歳の重ね方が歌に幅と深みを増す方向にひたすらまっすぐ進んでいるのがいいです。そして、最後は「元気しかない!」。本作もいいアルバムでした。

Music / Shiritsu Ebisu Chugaku (2019 SME)