前作までのジャケットを見ていて、アートはジャケットに頓着しないのかと思っていましたが、どうやら私の思い違いのようです。本作のジャケットは6種類もあるようで、ポイントは分かりませんけれども、アートはとにかくジャケットにこだわる人なのでした。

 そしてタイトル。「フェイト・フォー・ブレックファースト」は裏ジャケに記載のある「ダウト・フォー・デザート」と対句になっています。これは収録曲の歌詞にも全く含まれていません。何か深遠な意味があるのかと考えてもみましたが分かりません。単なる思いつき?

 前作までの流れに乗せると、本作品はプロデュースをルイ・シェルトンに託したアルバムと言えます。シェルトンはフォーク・デュオ、シールズ&クロフツのプロデューサーとしての仕事などで知られる人ですが、ギタリストとしてもさまざまな作品に参加しています。

 シェルトンがギターを弾いている曲として最も有名なのは、ライオネル・リッチーの「ハロー」、そしてボズ・スキャッグスの「ロウダウン」です。そもそも彼はアートの「ブレイクアウェイ」にもギタリストとして一部参加していました。

 このシェルトンの仕事を並べてみると、本作品のサウンドに合点がいきます。これはアート・ガーファンクルのソロ作品としては最もAORサウンドに近づいたアルバムです。アートのボーカル・スタイルがR&BテイストをまじえたAOR調になっています。

 参加ミュージシャンはさほど変わらないとは言え、マイケル・ブレッカーやリチャード・ティー、スティーヴ・ガットにリー・リトナーなどなど1970年代終わりから1980年代にかけてのAOR作品に欠かせない面々がしっかりと刻印されています。

 ただし、そこはあくまで相対的なものであって、いきなりアートがソウル歌手になるわけもありませんのでご心配なく。いつものアートに少しAORフレイバーを付け加えたという感じです。選ばれた曲もR&Bはあるものの、ソフトな作品でアート向きです。

 流行りに寄せてきたにも係わらず、本作品は米国では67位と振るいませんでした。ところがこれが英国では2位まで上がる大ヒットとなりました。それは英国のチャートを制した、ヨーロッパにおけるアートの代表曲「ブライト・アイズ」のおかげです。

 この曲はアニメ映画「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」のために英国人シンガーソングライターのマイク・バットが書いた曲です。だめもとでアートに送ったところ、気に入られて録音されることになりました。それが英国で170万枚を超える大ベストセラーになりました。

 急きょ英国発売の本作に収録されることになり、おかげでアルバムも売れました。米国では次のアルバムへの収録ですが、CD再発時には本作にも収録されるようになりました。やさしいシンプルな曲でアルバムにも溶け込んでいるしみじみとした名曲だと思います。

 我が道を行くアート・ガーファンクル、余裕綽々の一枚です。私生活も充実していた頃で、屈託のない伸びやかなボーカルが聴かれます。当時のシーンにちょっと寄せたとは言え、基本的には超然としたスタンダード型のボーカル・アルバムです。

Fate For Breakfast / Art Garfunkel (1979 Columbia)