前作と真逆のジャケット写真です。当時アート・ガーファンクルが一緒に暮らしていた恋人で写真家でもあるローリー・バードが撮影したもので、海辺にくつろぐアートの笑顔が素敵です。ただ、海の色も空の色も今一つすっきりしないのがジャケットにこだわらないアートらしい。

 前作ではプロデューサーのリチャード・ペリーにアルバムの決定権を委ねていましたけれども、本作ではセルフ・プロデュースとなっています。今度はその代わりに作曲者を統一しました。ほぼ全編にわたりジミー・ウェッブが書いた曲を歌っています。

 アートのソロ・デビュー曲「友に捧げる賛歌」がジミーの曲でした。この曲は唯一のトップ10ヒットでしたから、もともとアートとジミーの相性は良かった。デビュー・アルバムにはもう一曲、ジミーの「もう一つの子守歌」も収録されています。

 この作品では2曲を除いてすべてがジミーの曲です。ただし、そのうちの1曲、アイルランド民謡の「シー・ムーヴド・スルー・ザ・フェア」はジミーがアレンジしていますから、実質的にはジミーの曲だと言っても過言ではありません。

 アルバムを聴いているとしみじみと二人の相性の良さが染みわたります。何ならポール・サイモン以上に相性が良いと言い切ってしまいたいくらいです。作曲者が同じですから、アルバムの統一感も半端なく、アルバム丸ごとがとても落ち着いた空気を醸します。

 唯一の例外がサム・クックの「ワンダフル・ワールド」です。この曲のみプロデュースもフィル・ラモーンで、ポール・サイモンとジェイムズ・テイラーとのトリオでリード・ボーカルをとっています。さすがにかちっとまとまった曲に仕上がっていますが、どうしても異質です。

 もともとはここにもジミーの曲「フィンガーペイント」が収録されており、オランダではその形で先行発売されもしたそうです。しかし、「ワンダフル・ワールド」が先行してヒットしたため、急きょ差し替えて全世界発売となったそうです。レコード会社ったら。

 それはともかく、今回のセルフ・プロデュースではアート・ガーファンクルの音楽センスが全開です。まずは、共同プロデューサーにマッスル・ショールズのバリー・ベケットを迎えていることからも分かる通り、マッスル・ショールズのミュージシャンたちの存在が大きい。

 ポール・サイモンのマッスル・ショールズ好きは定評がありますが、アートも随分気に入っていたようです。アートのようなフォーク・ロック調のポップスの場合、全体の音数が少ない分、目立たないながらもリズム・セクションはとても重要です。

 そして、アイルランドの雄チーフタンズが2曲で参加しています。この段階で彼らに目をつけていたのはさすがです。しかも素晴らしい演奏を贅沢な使い方しています。さらには大学の聖歌隊をちょっとだけ使ってみたり。これもかなり贅沢です。

 「ミスター・シャック&ジャイヴ」でのジャイヴも特筆されます。相性の良いアーティストの曲をセルフ・プロデュースで超一流ミュージシャンを使ってシンプルかつ贅沢に彩るという、アートのやりたいように作った最初のアルバムでしょう。天晴な作品です。

Watermark / Art Garfunkel (1977 Columbia)