アート・ガーファンクルのソロ第二作です。奇妙なジャケットです。アートの左にいるのは男性という説もありますが、どうやら女優さん。右は当時の恋人ローリー・バード。アートは寝起きの堅い顔。ノーマン・シーフは頽廃的な写真に仕上げたものです。

 アルバムタイトル「ブレイクアウェイ」には伝統からの逸脱といった意味もありますから、その意味ではアルバムのタイトルを説明していると言えます。そして、裏ジャケットには仲睦まじいアートとローリーの大アップ。こちらの方はアルバムの内容を説明しています。

 そうです。この作品はロマンチックを絵に描いたようなアルバムです。プロデューサーのリチャード・ペリーは、最初からロマンチックなアルバムを目指していたと語っています。さらに言えば、女の子を口説けるようなアルバムを作るのだと。

 ソロ・デビュー作はサイモンとガーファンクル時代からの盟友ハル・ベリーのプロダクションでしたが、本作ではリチャード・ペリーが起用されました。このことは重要です。ザ・シンガーのアートはプロデューサーに任せるタイプの人ですから。

 アートはリチャードの手掛けたレコードにとても惹かれ、ドラムの音を始め、自分のスタイルにとても良く合う要素があると感じたそうです。さらに新しいものを産みだすパワーを尊重するため、決定権を委ねてどうなるか見てやろうという態度で臨んでいます。

 「愛への旅立ち」と邦題を振られたアルバムは、前作同様に豪華なミュージシャンが参加していますし、さまざまな曲のカバーから成っています。しかし、全体を覆うトーンは一貫しており、それは「抒情的かつロマンティックかつ官能的」と自ら語る感触です。

 選ばれた曲で注目されるのは、スティーヴン・ビショップの2曲、「めぐり会い」と「ある愛の終わりに」です。ビショップは後に有名になりますけれども、当時は全く無名のソングライターでした。後にさすがと言われる選曲をするとポイントが高いです。確かにいい曲ですし。

 さらにアルバムの中で唯一ペリーがプロデュースしていない曲に「マイ・リトル・タウン」があります。これはサイモンとガーファンクルの曲で、ポール・サイモンの「時の流れに」にも収録されています。アルバム中では異質ですけれども、ちょうどいいアクセントにはなっています。

 この曲はポールがアート向きだと考えて、アートのアルバム用にプレゼントした曲です。しかし、そこは幼馴染、ポールのことを良く知るアートは二人で歌うことを提案して、結局サイモンとガーファンクルの曲になったという微笑ましいエピソードが語られています。

 英国で1位となったドゥワップのスタンダード「瞳は君ゆえに」、デヴィッド・クロスビーとグレアム・ナッシュが参加した「愛への旅立ち」、スティーヴィー・ワンダーの「永遠の想い」、アルバート・ハモンドの「LAより99マイル」、アントニオ・カルロス・ジョビンの「春の予感」。

 どの曲のピースもはまるところにはめ込まれて、アルバムの一体感が素晴らしいです。アートはプロデューサーに任せることで、とても気持ち良く歌っています。もはや発売時からスタンダード集の趣きが濃厚で、時間を超えたアルバムということが出来ます。

参照:I Only Have Eyes For You

Breakaway / Art Garfunkel (1975 Columbia)