リユニオン・ライヴはありましたけれども、サイモンとガーファンクルにはデュオとして活動していた時期のライヴはほんの少ししか発表されていませんでした。ライヴ向きだとは思われなかったのか、公式録音の数がそもそも少ないんだそうです。

 1972年の「グレイテスト・ヒッツ」、1997年のボックス・セット「オールド・フレンズ」にその片鱗が記録されていたのみでしたから、2002年になって初めてライヴ・アルバムが発表された時には、長年のファンは狂喜したことでしょう。

 本作品は1967年1月22日にニューヨークのリンカーン・センターにあるフィルハーモニック・ホールで行われたライヴを収録したものです。現在ではデヴィッド・ゲフィン・ホールと名前が変わったホールはニューヨーク・フィルの本拠地です。

 キャパは2700席超ですから、それなりに大きなホールです。しかし、この日は客席だけでは足りずにステージ上にも客席が設けられ、デュオを取り囲む形のコンサートだったそうです。さすがは二人の地元だけのことはあります。

 たった二人だけのコンサートです。ポール・サイモンとアート・ガーファンクルのボーカルとポールのギターがあるのみ。もう一度言います。たった二人だけのコンサートです。二人のすぐ後ろに迫る観客たちとのとても親密な空気が演奏から漂ってきます。

 収録された曲は全部で19曲です。「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」を発表した後、「卒業」の発表前のタイミングですから、最初の3枚のアルバムからの選曲が中心で、デビュー作から5曲、2作目から6曲、3作目から5曲の構成です。

 この時点でのアルバム未収録曲は3曲、そのうち「冬の散歩道」はシングル発表されており、後に「ブックエンド」に収録されています。また、本作収録のうち4曲はボックス・セット「オールド・フレンズ」ですでに発表されていました。

 アルバム中でポール・サイモンの曲でないのはギターの師匠による「アンジー」のみです。ポールのギター・ソロとなっており、滅多に評価されないギタリストとしての腕前を見事に披露しています。ホールに響く繊細なアコースティック・ギターは美しいです。

 MCはアートが中心です。アートよりもポールの方がライヴ好きだと言いますから意外と言えば意外です。決して饒舌ではありませんけれども、地元での凱旋ライヴらしく、とても客との距離の近いほのぼのした空気を醸し出す一因にもなっています。

 二人のボーカル・ハーモニーは凛としています。アメリカの激動の60年代の只中にあって、思索を深める若者たちを鼓舞する音楽です。何とも潔いです。フォークの持つ力というものを改めて感じることができる素晴らしいライヴだと言えます。

 アルバム・ジャケットに記されている通り、サイモンとガーファンクルを思う時、人々はこんな夜のことを思い出しているのではないでしょうか。決してフォークにとどまる二人ではありませんけれども、やはり二人の本質はアコースティック・デュオなのでしょう。

Live From New York City, 1967 / Simon & Garfunkel (2002 Columbia)