サイモンとガーファンクルは1970年に不朽の名作「明日に架ける橋」を発表して以降、デュオとしての活動はほとんど行っておらず、わずかに大統領候補支援コンサートに出演したり、シングルを発表したりしていただけでした。

 解散と広言していたわけではないこと、二人が幼馴染であること、二人ともソロ活動で成功していたこと、などなどから再結成の噂も絶えず、ファンの側にも待望する声が強かった。何よりもレコード会社は再結成してほしかったことでしょう。

 そこにニューヨークのセントラル・パークからのコンサートのオファーです。本作収録のアート・ガーファンクル「ハート・イン・ニューヨーク」に出てくるように、当時のセントラル・パークは♪夜に行っちゃいけないとみんなが言う♪恐ろしいイメージがありました。

 財政的な行き詰まりもあり、それを解消すべく大規模なフリー・コンサートを公園当局が企画します。最初はエルトン・ジョンとジェイムス・テイラーで、2年目にはポール・サイモンに白羽の矢を立てます。ポールは「アートとやりたい」とまわりを狂喜させます。

 そうして、1981年9月19日、サイモンとガーファンクルのリユニオン・コンサートがセントラル・パークで開催されました。当日は直前まで雨が降っていたようですが、なんと50万人を超える人びとが集まりました。50万人!!

 スタジアム・ロックではなく、フォーク・ロックのデュオがバンドを従えてではあっても、50万人の観衆を前にオープン・エアで演奏するという事実にめまいがしますが、少なくともレコード化された音源からは極めてまっとうなS&Gらしいライヴ演奏が聴かれます。

 収録された曲は19曲で、カバーはエヴァリー・ブラザーズの大ヒット「リトル・スージー」、そして「僕のコダクローム」から続くチャック・ベリーの「メイべリーン」の2曲のみです。どちらも二人の音楽からは切っても切り離せないアーティストです。

 デュオ時代の名曲の数々にそれぞれのソロ作からの曲を交えて懐かしいことこの上ありません。自分史的にもちょうど就職したばかりの時期で、長らく忌避していた彼らの音楽に原点回帰して、まっとうな道に戻ることを企図してアルバムを買いました。戻れませんでしたが。

 素晴らしいなと思ったのはポールのソロ作「アメリカの歌」です。ここでは前半アートがリードをとって、ポールがハモる構成です。これだけでもこのアルバムの値打ちがあるというものです。スタジオ盤でもアートが歌うバージョンを聴きたかった。

 バックを固めるのはスティーヴ・ガットやグラディ・テイト、リチャード・ティー、アンソニー・ジャクソンといった超一流セッション・ミュージシャンです。安心して聴けるコクのある演奏で二人を盛り立てます。さすがビッグ・ネームは違います。

 アートは本作でのボーカルに後悔の念があるようです。分からないではないですが、復活したS&Gはこの後ワールド・ツアーを行っていますから、日本ツアーまでには往年の名ボーカルが完全復活していたものと信じたいものです。

The Concert In Central Park / Simon & Garfunkel (1982 Warner)