ユニット名が「ディス・イズ・イット!」。「これだ!」でも「これや!」でも「これじゃ!」でも「これでっせ!」でもなく「これです!」です。日本語訳は気合が入っているんだかそうでもないのか分かりませんが、英語は確かにびしっと決まっています。

 藤井郷子によれば、これがデビュー・アルバムとなるディス・イズ・イット!は、実は長い間共演を重ねてきたトリオだということです。最初は、サトコ・フジイ・ニュー・トリオ。藤井のピアノ、井谷享志のドラム、トッド・ニコルソンのベースによるトリオでした。

 ここに田村夏樹が加わって、カルテット・トビラに変身するも、ニコルソンがニューヨークに転居したため、彼を抜いてトビラ・マイナス・ワンとして活動を続けることになります。そのバンドが改名したのがディス・イズ・イット!とあいなります。

 この変遷の中では、本作品が3枚目のアルバムということになります。今回は藤井郷子還暦記念毎月CDリリースの一作としての発表です。毎月発売とは大変な話ですが、見事にやり遂げられました。天晴としか言いようがありません。

 本作品はディス・イズ・イット!によって2018年1月に東京渋谷にあるライブハウス「公園通りクラシックス」にて公開レコーディングされました。レコーディング・エンジニアはドラマーとして活躍する吉田達也が担当しています。

 タイトル「1538」は鉄の溶解温度からとられています。ジャケットも溶鉱炉を模したものなのでしょう。通常のマグマよりも高温ですから熱い熱い。「鉄も溶け始めるような熱い気持ちが伝わればうれしい」とは藤井の言葉です。

 このアルバムには6曲が収録されています。藤井が全曲作曲しています。田村によれば藤井から新曲だといって渡された譜面を見た瞬間に、その変拍子の嵐にいつも「こんなの演奏不可能ですよ」と思うのだそうです。小節ごとに拍子が変わるといいますから凄い。

 「しかし実際に演奏してみるとその譜面上から受ける印象とは違って結構自然に入っていける曲が多い」と言います。それは「変拍子ありきではなく」、「自然に出て来たメロディーラインを素直に譜面に書き起こすと自ずから変拍子になってしまった」ということです。

 一方、「ゆったりとした一定の拍子で切なく歌い上げるような曲」もあって、その曲のおかげで「ライブの時など少しリラックスできて大いに助かる」のだそうです。田村のライナーノーツは一般的な表現ですが、本作品にそのまま当てはまります。

 藤井のピアノ、田村のトランペット、井谷のドラムが鉄も溶けよと盛り上がるかと思うと、リリカルがふわふわと舞い降りてきたりしてとても楽しいライブになっています。ブレイクを多用して、流れるメロディーを分断するところも面白いです。

 1950年代のジャズを感じさせる部分もある一方で、星座を楽譜にしたような曲もありますし、音のさまざまな表情が楽しい。このトリオはとても相性がよさそうです。トリオの決定版とも言えるバンド名に嘘偽りはないということでした。

1538 / This Is It! (2018 Libra)