フェラ・クティの生前最後の作品になってしまいました。1992年発表の「アンダーグラウンド・システム」です。フェラが亡くなったのは1997年8月のことでしたから、まだ5年残されていましたけれども、またまた逮捕されたり、なんやらでこの間作品は発表されませんでした。

 フェラは現役のアフリカ指導者の中ではほとんど唯一ブルキナファソの革命家にして大統領となったトーマス・サンカラを評価していました。サンカラも個人的にフェラを招待するなど、二人はお互いを認め合っていた関係にありました。

 しかし、1983年に大統領となったサンカラは1987年10月にクーデターで射殺されてしまいました。このことがフェラに大きな衝撃を与えたことは想像に難くありません。フェラは、サンカラの非業の死を契機にこの「アンダーグラウンド・システム」を制作しました。

 フェラはこの曲の中で、サンカラの死はアフリカ中の軍や政治エリートが互いに共謀するアンダーグラウンド・システムによってもたらされたのだと糾弾しています。アフリカ政治の現実を眺めていると、このシステムの存在には説得力があるものと思います。

 この曲はとにかく素晴らしいです。釈放されてからのフェラ作品は比較的ゆったりとしたリズムの曲が多かったのに対し、これは傑作を連発していた頃のフェラに比べても、かなりの高速リズムでアグレッシブに突っ走ります。BPMはかなりの数字が出ているはず。

 ドラムやベースが突っ走るばかりではなく、ギターも高速カッティングを刻み、コーラスも力強く勇猛果敢な前進を試みます。これを背景にフェラのラップ調の歌が粘っこく声高な主張を繰り出します。フェラの声も断然力強く、若返ったようです。

 B面には「パンサ・パンサ」が収められました。この曲は1977年中ごろに初めて演奏されたそうです。警察と軍隊によるカラクタ襲撃があった直後のことです。フェラの過去作品を引用しながら、ストレートに当局への怒りを表明した楽曲です。

 昔の楽曲とは言え、ここでは「アンダーグラウンド・システム」に引っ張られて、こちらも高速リズムで展開します。「パンサ・パンサ」とは「もっと、もっと」という意味で、このキャッチ・フレーズでもって聴衆を煽り立てていきます。こちらも力強い。

 サンカラの死と時を同じくしてフェラの身体には発疹が現れます。フェラは頑なに信じようとしませんでしたが、10年後にこれはエイズの兆候であったことがフェラの死をもって判明します。さらにこの10年の間には逮捕・投獄と身の休まることはありませんでした。

 そんな後の出来事を知ってしまうと、本作がいかに掛け替えのないものであるかが分かります。フェラと彼を支えたエジプト80の新たな出発とも言える力強い作品でした。クラブ・ミュージックの世界とも通じる新生アフロ・ビートはとにかく素晴らしい。

 曲の最後に往生際の悪いリズム・ギターの微かなサウンドを残して、この偉大なアフリカ人はこの世を去ってしまいました。フェラほど圧政と身をもって戦ったミュージシャンは他に知りません。残された圧倒的に素晴らしい音楽の数々は私の背中を蹴り続けています。

Underground System / Fela Anikulapo Kuti & Egypt 80 (1992 Kalakuta)